灰捧月の子守歌

絵之色

第0夜 プロローグ

 線描せんびょうで囲まれた天蓋てんがいの月は夜空の幕の中にひっそりと微睡まどろんでいる。

 荒廃こうはいとした居城きょじょうにて。

 壊れた心で彼女は歌う、今日も、己の歌にすがっている。

 あの月に、祈り声をささきながら。

 この夜に、願い涙を流しながら。

 少女の悲嘆ひたんは人々が知るすべすらもない。

 たとえ、どんなれ姿であろうとも。

 たとえ、どんな晴れ姿を見せてでも。

 彼女はただ、無様に歌うのだ。

 彼女はただ、愚直ぐちょくに求めるのだ。

 ただ、ただ、ただ。


 ――彼女はおろかにも、あの月夜を愛していたのだから。


「……あぁ、あぁ」


 閉じ込められた古城こじょうに、孤独こどくに満ちた終生しゅうせいを送ろうとも、彼女は己の言葉だけあの夜に届いてほしいとすがるようにこいねがうのだ。

 どれだけ、自分をけがされても。

 どれだけ、自分をおかされても。


「……あぁ、今日も、月がキレイだわ」


 少女は、頬に伝う涙で床をらしながら、微笑ほほえんだ。

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