つま先 ーカクコン１０ 短編お題『つま先』ー

第1話 熟年離婚

新年へのカウントダウンを聞きながら、離婚届を差し出した妻。

今年で退職、来年からは、二人でのんびりと……と思っていた矢先の出来事。

確かに、結婚してからずっと仕事以外は好き勝手、妻を顧みることはなかったけれど。

一言の不満も無く、甲斐甲斐しくやってくれていたのに。

「お仕事のサポートと思って務めてまいりましたが、貴方の『好き勝手』をサポートするつもりはありません」と。

そのまま、荷物をまとめて出て行った。

その後の妻の行方は、杳（よう）として知れず。

今更ながら、妻の事を何も知らない自分に呆然とする。

結婚する前、彼女のことならば何でも知りたくて、飽くことなく語り合っていたのに。

彼女の事なら何でも知っていると思っていたのに。

いつのまにこんなに遠い存在になっていたんだろう。

あれから半年。

靴下のつま先にぽっかりと開いた穴。

そういえば、妻の故郷では、靴下の穴の事を「ジャガイモのできとる」っていってたっけ。

頃は、新じゃがの季節。

妻の『新じゃがの煮っころがし』は美味しかったな。

そんなことが思い出される僕の心にも『ジャガイモのできとる』

ー完ー