都市熾天

第21話 熾天の戦い、堕天の災い

　《【ZAIRIKU】を統治するということは啓蒙の興り》

ホテルでの細部を改めて紐解いて説明した茉莉花にリネンは語る。

　はじめは数百体ほどのセラフィムを送り込んでくるでしょう。

それを見た人々は神のお告げがあるとして崇め奉り、歓喜し、讃美します。

各地で一斉に起きたこの現象は瞬く間に世界中で共有されて認知を促すことでしょう。次々とポータルが接続されはじめると数千のセラフィムが現れはじめ、人々は次の段階に思考が移りはじめます。

　その姿に魅了される者、真似をして背中に翼を背負う者、交流をはかろうとする者、捕まえて見せ物にしようとする者、面白半分に銃で撃つ者、それを止めようとする者、家の鏡の前で待ち続ける者 ────

世界でありとあらゆるセラフィムへの思考を視覚として映像が結びつけていきます。

　数万というセラフィムが現れる段階になると更に思考は移り変わります。

世界の人々はセラフィムを畏怖し、鏡を打ち壊し、人を裁く者が現れたのだと認識し、膝を突き合わせてこの問題に議論を繰り返し、手を取り合ってこの災いに信仰と信念を以て熾天の戦いに挑んでくることでしょう。

　その時になって世界の70%以上が人ではなく使者に置き換わっていたことを人々は知ります、生きる事と生かされている事に境界線がないのだと身をもって知ることとなります。

行政、軍隊、警察、学校、病院、農業、漁業、工業、商業、その殆を使者が担っているこの世界は維持すらできずに崩壊するのだと、

　ただ一つの方法を除いては ────

《【ZAIRIKU】へのレリジョンを救済とさせるのは明白です》

人が【ZAIRIKU】とレリジョンする事など本来あり得ない話しだが、茉莉花はそれを肯定せざるを得なかった。

「セラフィム達に核を喰わせてレリジョンさせるのだな」

「レリジョンってなんだ？」クダチが怪訝な表情で聞き返した。

「それについては 6.0 haven でガブリエルが伝えるのが決まりだ」

「あの面（メン）がヘラったヤツは裏切り者だろ？」クダチは釈然としない様子。

「リネン様、わたしはどうなってしまうのですか？」

《今は事がはじまる前に、ポータルへの接続に集中しましょう》

「ああ、そうだな」茉莉花もポータルへの接続方法の考察に集中する事で、暫くこの話題から目を逸らしたのであった。

茉莉花はリネンの言う出来事が起こる可能性がどれくらいなのかと算定している一方で、もし【ZAIRIKU】がリネンに統治されてしまった場合それを序列上位者といえるのだろうか?　と、ここで思考停止を繰り返していた。

解のない思考のループが作り出される度に直線的な思考が撓（たわ）んで茉莉花の速度を鈍らせはじめていた。

《ここから南下して線路に沿って東に向かうとターミナル駅があり、その近くの４階建てビルの３階に開放されているポータルがあります》

　開放されている ──── やはりあのポータルは特別なのだろうか

「ああ、その場所なら知っている」

　店内通路の行き止まり、壁の一部が全面鏡になっているただそれだけの場所。頻繁に使者が通り抜けてくるのは確かだが6.0 haven へ帰還するには不向きでリスクが高い。

「終端への呼びかけをせずにADAPTできれば有用なのだが」

「アイツら正気だといいな」クダチは清掃員を思い返している。

「きっと大丈夫ですよ」コーラスも同じ思い出を共有していた。

《今となっては知られた場所になっているのですね》

「あのポータルを潜った事は？」

《ありません、以前から使者の通り道として使われている古いポータルですが高次から低次への一方通行である可能性も否定できません》

「ならば試してハッキリさせよう」

共通認識となっている使者の通り道、試す価値はある ────

つづく