第8話 二試合目(最終マッチ)4/4 今回短めです!


 あれから時間が経ち、残り5部隊、15人。最終縮小エリアが形を成し、エリア外のダメージが増幅される中、俺は冷静に状況を見つめた。遮蔽物の多い建物エリア、狭まる円に追い込まれる各部隊。


「ここで勝利するには、正確無比な判断と圧倒的な破壊力が必要だ……」


 この状況下で、俺は一つの周りから見たら狂気的な決断を下した。


「捨てるしかねえな」


 俺は回復アイテムをすべて捨てる。メディキット、注射器、フェニックスキット、シールドバッテリー…そのすべてを地面に置き去りにした。俺の装備は、ダブルウィングマンの弾数120にとアークスター14つ。この選択には一切の迷いがなかった。この試合を、完全に支配し、すべての敵を叩き潰す。あらゆる精密さと破壊力をぶつけて、俺は勝つ。


「な、何をしているんだアルト!」

 耳元でミヒャエルの声が聞こえたが、俺はその声を無視して、冷徹に行動に移そうと構える。そう、移すだけだ。壊してやる……。


 ——数十分後。


「お前らの行動全部読めるんだよ!」

 大量のアークスターの爆発音の後に、「CHAMPION」の文字が画面に浮かび上がる。何のことはない、あの後、敵すべてヘッドショットで仕留めた。そして、アークスターもすべて衝動をぶつけるかのように命中させただけだ。

 何も奇跡でもなんでもない。俺がやったのは、ただ一つ。圧倒的な精密さと破壊力を、この手でぶつけただけ。


「ま、まじかよ……じゅるり」

「さっすが~」


 みどりんとミヒャエルの驚嘆の声が聞こえる。おいおい、ぽまえら!興奮を隠しきれてねえぞ、ぽまえら!まあ、それは俺もなんだが。


 そして、コメント欄には配信の視聴者たちから次々と熱狂的な言葉が溢れ出していた。


 ─うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。気持ち良すぎだろおおお、お母さああああああああん!

 ─うますんぎ船長だわ

 ─おいおい、この2試合マジで伝説だろ

 ─なんか、マザコンいて草

 ─破壊的プレイ素敵♡


 称賛の嵐が途切れることなく流れていく。しかし、その騒がしさとは裏腹に、俺の意識は徐々に奇妙な違和感に包まれていった。


「なっ……」


 急に視界がグラつき始め、周囲の色彩がぼやけていく。頭がクラクラと回り、全身が力を失っていく感覚が広がった。


「今日は祝勝配信だね!お酒飲むぞ~」

「いや、あなた現役高校生でしょ。それにしても勝ちましたねじゅるり。アルト!最高のプレイだったよ!次は本戦!!」


 ミヒャエルエンデとみどりん――仲間たちの声が聞こえるが、それすらも次第に霞んでいく。頭がぐわんぐわんと揺れ、体は重力に逆らえず沈んでいくようだった。


「やべ……集中しすぎたかも……」


 最後のつぶやきが、遠くの何かのように自分の耳に届く。目の前の景色がぼやけ、暗闇に飲み込まれるように、自分の体がふっと軽くなり、最後には何も感じなくなった。

 

 ◆◇◆◇


 ハっと目を覚ます。


 闇が支配する部屋の中、薄明かりに包まれた天井が視界に入った。俺はベッドの上に倒れるように横たわっていたらしい。頭がぼんやりとしていて、まるで時間の感覚が欠け落ちたような気分だ。


「過集中で疲れて、寝てたのか……」

 独り言が喉を擦り抜ける。久しぶりにあんなにゲームに集中したな。昔から集中しすぎて体がおかしくなることがある。メリットが爆発的にある時は大抵デメリットがあるもんだ。俺も例に漏れずって訳ですな。


 デスクを見ると壁掛け時計の秒針がカチ、カチと一定のリズムで時を刻む音だけが、この静寂を支配していた。


 だが、その静けさを断ち切るように――ギィ……、扉の開く音が耳を打つ。


 体がビクリと反応する。眠気が吹き飛び、瞼をこじ開けるようにして目を開いた。

 廊下からの微かな光が、影を引き連れて部屋に差し込む。そして、その光の中に立つ人影――みどりの姿が浮かび上がった。


「……みどり?」


 彼女は部屋の中へ足を踏み入れる。泣き腫らしたような赤い瞳、大粒の涙が頬を伝い、手の甲で何度も拭おうとしているが、止まる気配はない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 次回、学校パート少しは入ります!お楽しみに!



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