元世界一プロゲーマーの俺、顔が良すぎる幼馴染の頼みを受け入れてアジア大会に参加するが、無双しすぎた為にVtuberデビューするハメに
北ゆきやん
第1話 幼馴染の勧誘・破壊の時代
俺、
このゲームタイトルは『LOCK』――戦場を駆け巡る銃撃戦が主体のオンラインゲームで、計三人で一つのチームを組んでいる。俺とゲーム友達の水口、そして一人の野良プレイヤーで現在カジュアルマッチをプレイしている状況だ。
「……」
それにしても、さっきからなーんか違和感があると思って、画面左下を見たらユーザー名表示に、栗頭鬼次郎と刻まれていた。
「どういう名前のセンス……」
おいおい、これ本名だったら絶対堅気の名前じゃないでしょ、これ……。
「鬼次郎ちゃ~ん」
ヘッドフォン越しに水口の陽気な声が飛び出した。知らない相手だろうとお構いなしに、自分のペースで場を盛り上げる。
「声可愛いねえ~、モテるでしょ~」
その一言に、俺はため息をつきそうになる。水口は無類の軟派男で、とにかく野良の女性プレイヤーを見つけるたびに声をかける癖がある。もちろん、何度も空振りに終わっている。
「そうでもないですよ」
控えめな声で返す彼女の声色とやり取りから推測するに、鬼次郎ちゃんは結構おとなしい性格をしている。そこまで高くない声音、隙の無さと控えめな性格、自己開示の下手さから恐らく交際経験はないのだろうと勝手に推測する。我ながら失礼すぎるな、この推測。
女の子の返事は短く、素っ気ない。だが、それで怯むような水口ではない。
「そんなことあるって~」
「おいおい、その辺にしとけよ水口」
俺はそう言い、2人のやり取りを背に、モニター越しの戦場に意識を集中させる。
目の前には建物の影に潜む敵部隊。あのチーム完全にこっちにに気付いているな。遮蔽物の裏でチラリと覗く敵の頭が、一瞬だけ視界に入った。
先手を打つ。
俺はまずグレネードを放り投げた。ピンを抜く音が鳴り、直線的な放物線を描いてグレネードが建物の中に消える。その瞬間、爆発音が轟き、敵の動きが一瞬だけ止まる。
「今だな」
俺はスライディングで瓦礫を滑り降り、途中でジャンプして屋根へ一気に上がる。そこで敵の射線を切りつつ、屋根上から正確にR-301の銃口を覗かせる。一瞬の照準で敵の頭を狙い撃ち。我ながら見事な連射で確実に一人目を撃破。
だが、もう一人がすぐに反撃してくる。左側の高台から砂嵐のような射撃が何発も飛んできた。
俺は瞬時に状況を判断し、バニーホップを織り交ぜた軽やかなステップで被弾を回避する。建物の裏へ滑り込む。裏に隠れた俺は素早くセルを展開し、シールドを回復。左手でマウスホイールをスクロールしながらマップを確認する。敵がどの位置に展開しているのか、動きのパターンを読み、次の一手を計算する。
「お、援護するぜ」
女の子と軽口を叩いていた水口がようやく真剣モードに入る。水口の使用キャラが構えたセンチネルの銃口が光り、遮蔽物の陰から敵を狙撃し始める。
「ありゃ」
普通に外したな。まあ、それでも……。
「十分」
その間に俺は右側へ素早く回り込み、見つけたジップラインを掴んで一気に高台へと登った。
敵は明らかに混乱していた。突然の位置取りの変化に気づき、慌てたように振り向く。だが、俺のエイムがその動きを許さない。
「ばーか、おせえんだよ」
ピースキーパーを構えて至近距離でトリガーを引く。完璧なタイミングで敵の頭をぶち抜いた。
さらにもう一発110ダメージ――ヘッドショット!
画面中央には鮮やかな赤いダメージ数値が浮かび上がる。敵は倒れる間もなく崩れ落ち、無残にも地面に倒れ込んだ。その瞬間、光を放つデスボックスが足元に現れる。
素早くデスボックスを開き、中を漁る。欲しかった武器――ウィングマンがそこにあった。
ウィングマンはリボルバータイプのハンドガンで、強力な単発ダメージが特徴だ。ヘッドショット倍率が高く、アタッチメントでスカルピアサーを装着すれば、さらにその威力を引き出すことができる。一発一発のリロードは遅めだが、命中精度さえ高ければ、どんな状況でも瞬時に敵を仕留められる。俺が一番好きな武器だ。
「そろそろ使いたくなってきてたんだよ」
次の瞬間、遠くの建物の屋根に逃げ込んだ残りの一人の敵が視界に入る。逃げ腰のそいつは明らかに位置を優位に保ち高所を取っているが、その戦法はあまり得策ではねえな。
オクタミンの特性を活かして、地面にジャンプパッドを設置。シュンッと音を立てて作動したパッドに勢いよく飛び乗ると、俺のキャラクターは一気に宙へと跳躍した。
空中からの視点が広がる中、屋根の上にいる敵の姿が小さく見える。その動きを正確に読み、ウィングマンの照準を合わせる。
ウィングマンを構え、トリガーを引く。
バンッ!
1発目の銃声が響き渡る。弾丸は空気を切り裂き、完全に計算通り敵の頭部に直撃。紫色のシールドが砕け、敵は驚いて振り返る。だが、その動きすらも遅い。俺は既に次の動作に入っている。
ウィングマンの反動をそのまま利用し、照準を微調整。敵が逃げようとして一歩動くが、それすら俺の予測範囲内。2発目のトリガーを引く。
バンッ!
2発目の銃声。敵の頭部が再び弾丸に貫かれ、体が大きく揺れる。青のシールドが完全に剥がれ落ちのを確認。敵の動きが鈍り、建物内に隠れようとするが、そんな猶予を与える気はない。
空中にいる俺のキャラクターは、反動でわずかに揺れている。それでも俺のエイムはブレない。3発目に指をかける。
「これで19部隊中11部隊目も撃破だな」
バンッ!
3発目の銃声が鳴り響いた瞬間、敵の体が一瞬硬直し、次の瞬間崩れ落ちる。完璧なヘッドショット3連続。キルログが画面に表示される。俺の名前がそこに刻まれ、敵のIDは消え去る。
着地の瞬間、俺はウィングマンを回転させ、再びリロードに入る。1発1発のリロード音が心地よい。
「お前、ほんっっと信じられねえな。全部頭に当てたのか?」
ヘッドセット越しに水口の声が聞こえる。信じられないというより、もはや呆れと賞賛が混ざり合ったトーンだった。
俺は軽く笑う。
「当たり前だろ。元世界一ってのは、そういうことだ。今回も俺たちの手で全滅させるぞ」
「おうよ」
そして、彼はそのまま俺との後に鬼次郎ちゃんに話しかける。
「鬼次郎ちゃん俺らうまかったしょー」
「はい、びっくりしました」
微妙にテンションの低いその声に、俺は笑いをこらえた。俺様のあまりのうまさにびっくりしてしまったのか、まあ仕方ないわな。
水口はお構いなしにテンション高めで話を続けている。気づいていないのか、いや、むしろ気づいた上でも話し続けるそのモチベの源泉がほんとに謎だ。
「てかさー、話戻すんだけど彼氏とかいるん?」
聞いた瞬間、その場が一瞬静寂に包まれた気がした。鬼次郎ちゃん直球で言葉を返す。
「います!」
「マ、マジすか……」
また振られちゃったか。どんまい。
「はい、水口終了のお知らせ~!これにて解散!!」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「やばい、壊れちゃった!水口君が壊れちゃった!」
「おんぎゃあああああああああああああああああああああ」
水口の気持ちの悪い赤ちゃんプレイが炸裂する。実はこう見えて、こいつは結構成績が良い。こいつといると成績の良さと常識的な言動は比例しない事がよく実感できる。
「遂に赤ちゃんプレイまでも始めちゃったよ!戦場のど真ん中で!ほら鬼次郎ちゃん励ましてあげて!」
俺がそう言うと、鬼次郎ちゃんはため息混じりに一言だけ吐き捨てる。
「……きも」
鬼次郎ちゃんの冷え冷えとした言葉がヘッドフォン越しに響く。あらら、これ結構ウケるんだけどな……。今回は不発だな。
そんなやり取りが続く中、不意に背後から聞き慣れた声が飛び込んできた。
「雪やん!!」
慌ただしい足音が続き、声の主が俺の部屋に入ってくる気配がした。俺は反射的に振り返る――その声の主は案の定幼馴染みのみどりだった。そして案の定いつものように無断入室。俺がマスターソードをベーションしてたらどうするつもりだ、ほんとに。何度これにひやひやしたことか。
お腹も空いてきたし抜けるか。カジュアル帯だから迷惑にもならんだろ。水口とは……まあ、後で楽しむか。
「わり、用事できた抜けるわ」
俺はそう言い残してマイクをミュートにし、席を立った。
「おい、雪弥っ!このタイミングで抜けるの気まずいって!厳しいって!」
水口の声が必死に追いすがってくる。だが、俺は気に留めずモニターの電源を落とした。リビングの明かりが、ふっと暗くなった画面を反射する。
振り返ると、そこにはみどりが立っていた。彼女の顔には少しの焦りといつもの快活さが入り混じっている。
「悪い、抜けてきた」
息を切らし、少しだけ髪を乱したみどりが『えへへ』とはにかんだ笑顔で立っていた。
いや、待て。……なんだなんだ、その装いは!?
アイドルばりの洗練された顔立ちに、笑顔から滲みでる内側からの明るいエネルギー――これはいつものみどり。しかし、今日の彼女は一味違った。そう、まず目を引いたのは、ピンク色のツインテールだ。赤と黒のリボンで結ばれたその髪型は気合の入っている日にしか俺は見たことがない。
しかも、よく見るとみどりは、脇も鎖骨も肩も露出した白のノースリーブニットに黒のスカートという目を惹く服装をしていた。脇と鎖骨と肩の露出という究極のトリプルコンボをカマすその姿に、俺は思わず驚き数歩後ずさってしまう。どんちゃんも三種の神器だドン!と、どんちゃん騒ぎするレベル。俺のドンちゃんも騒いじゃおっかな~……。
ひとまず、みどりにはスタンディングオベーションを送りたい。その服装だけで千回抜ける事をここに記すみたいな意味合いで。
ノースリーブニットから見え隠れする彼女の脇には、気品さえ漂っている。しかも、だ。
そんな目を奪われる服装であるにもかかわらず、みどり本人はそれを全く意識していない様子なのがまたポイント高い。
完全にナチュラルボーン脇プロフェッショナル。しかし、だ。
この気合の入りよう、何か特別なことがあるに違いない――
そういえば今日俺でも知っている予定があったような……。何だったけか。
あっ、普通にあったわ、俺でも知ってる重大なやつ。
「てか、そういえばお前配信中じゃなかったか?大会かなんかの」
「うん、そのことなんだけど」
みどりは息を整え、一瞬言葉を飲み込んでから、再び口を開いた。
「急にごめんなんだけど、今からアジア大会出てくれない?!」
「はい?」
そう、彼女は駆け出しのVtuberで今日重要な大会が――。え、ごめん、今なんて言った??
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