コミュ障の私が異世界に聖女として転生したから、こちらの世界では輝かしい人生を送りたい!

太星TAISEI

序章 プロローグ

第1話 死にました。神様?

「はぁ……、はぁ……、はぁ……。ここまでくれば……。……!?」


 今日はクリスマス。夜19時。私は走って逃げている。ある路地から飛び出して、私の意識は飛んだ。

 トラックに轢かれて、即死だったようだ。


――少し遡り――

 

 私は松下さつき。30歳。長年の引きこもりで体力は皆無。筋力もないガリガリ女子だ。引きこもっても太らないで痩せるタイプだった。いや、そんな事はどうでもいい。それに加えて、私は極度のコミュ障だ。

 普段は家から出ることなんてないんだけど、今日は1番大好きな声優のドラマCDが発売する日なのだ!WEB配信もするし、CDの予約もしたから自動的に家に届くんだけど、何故か!?私の街のCDショップに本人が来て握手会をするらしいのだ!

 これは行くしかない!!行くしかないのだ!!

 コミュ障な私でも、これはどうしても外せないイベントだ。

 

 ――握手会場――


 私は得意でもない化粧をし、似合もしない少し可愛い感じの服を着ている。外にはほとんど出ないから肌の色も真っ白だ。

 今日の握手会は本当に命をかけていると言っても過言ではない。正直外に出るだけでも息苦しい。それでも、大好きな声優に会えると思えば我慢できる。


 握手会の時間になり、私は列に並ぶ。声優がすぐ近くにいると思うだけで興奮してきた。……鼻血が出そう。


 刻一刻と近づく握手街の列。あと少しで私の番だ。あと3人……2人……次……。私の番だ!!


『今日はありがとう。なんのキャラの声がいいかな?』


 声優さんは私の前で好きなキャラクターの声で話をしてくれるそうだ!!はぁ!やばいやばい!!


「……あの、で、では、きょ『きょう』の声でおね、お願いします……。」


 私は少し俯いてしまっているがしっかり顔は見ながらリクエストを出した。『きょう』とは、私が1番ハマっているアニメのサブキャラだ。主役ではないけど、そのかっこよさからそのアニメ内でも絶大な人気を誇るキャラクターだ。


『わかった!ありがとう!名前なんていうの!?』


 声優さんはリクエストしたキャラクターの声とそのキャラクターになりきって話してくれた。


「ま、まつした……さつきっていいます……。」


『ありがとう!さつき!さつきにとって今日がいい日でありますよーに!!』


 キャラクターのセリフだ……!!うわっ!嬉しい!!

 キャラクターになりきって話をしてくれて、名前を呼んでくれて、握手をしてくれて、CDにサインをしてくれた。


「……ありがとう……ございます……!」


 私は感無量。もう涙が出てきてる。


『こっちこそありがとう!バイバイ!!』


 一瞬にしてこの出会いは終わってしまったけれど、今日のことは一生の思い出になるだろう。


「はぁ……、もう幸せすぎる。死ぬのかな……。」


 などと冗談混じりに独り言を呟いていた。


 ――帰り道――


 私は今日の握手会のことをずっと考えながら家路についた。今日の会場は家からは徒歩で20分くらいの場所だ。もしかしたら、握手会終わった声優さんがどこかから出てくるかもしれない。少し待っていようかな……。なんて、非常識なことを考えている。

 少しでもバレないように用事もないのに近くのコンビニに入ったり、電話するふりをしたりしながら待っていた。

 18時くらいだろうか。私がCDショップの裏を偶然通りかかった風を装って通った時だ。裏口から声優さんが出て、そのまま裏口付近で何やら挨拶をしたりしている。

 このショップの裏側は地元民でもなかなか知らない隠れやすい場所だ。私以外に裏口近くには誰もいない。

 すると、裏口から声優が出てくるのがわかった。店員さんと仲良さげに話している。はぁ!いい声!!


「ありがとうございました!いい集客になりました!」


 店員さんはお礼を言っている。こうやって話を盗み聞きしているとストーカーみたいだ。


「いえいえ。実はこのショップには小さい頃お世話になったからね。」


 ……え!?ここって完全に家と同じ学区だよね!?多分同い年くらいだから、同級生なのかもしれない!?それは困ったなぁ。こんな私のことを知られるのは嫌だし。それに、本名言っちゃったよね!?大丈夫かな……。まあ、か……。ちょっとびっくりして後退り。ベタに後ろの柵にぶつかり音を立てる。そして案の定、声優さんに気づかれる。私は急いで逃げる。


 ――――――――


 そして最初の場面へ戻る。


 ――――――――


 はぁ、私はなんてドジなんだろう。というか、アホだ。もうこんな私は死んで当然なんじゃないだろうか。むしろ死んだ方が世の中のためだったんじゃないだろうか。お母さんにも迷惑かけていたし、好きな声優をストーカーして、挙句の果てには完全に早とちりで轢かれておしまい。はぁ、色んな人に迷惑かけたからなあ。天国っていけるのかなぁ。


 …………


 ……??なんでこんなに思考がはっきりしているんだ??

 ッ!!?てか裸!?なんで!?

 私は自分が裸で意識もあることに驚いた。


 ―ここは死後の世界だからですよ。基本的に人間は生まれたままの姿でここに呼ばれる。思い浮かべれば服も着られますよ。―


 うお!?なんか対話できてる!?思い浮かべれば!?……っ!?おお!ほんとだ!服着られた!

 っていうか、さっきの声は……!?


 ―私は人間達に神とよばれるものです。間宮さん。―


 うーん。まあ、とりあえず、わかったけど……ん??間宮さん?


「あ、あの……、ま、さん……って?」


 ―ええ、あなたのことですよ?さん。あなたは現世において多大なる貢献をしたので、違う世界に転生をして素晴らしい第2の人生を歩んでもらおうと思いまして。―


「あ、あ……あの。」


 私の声は小さいからなのか、自分に間違いはないと信じきっているのか、神様とやらは話を続けた。


 ―あなたに行ってもらう世界は魔法が存在します。あなたには俗に言うチートスキルを授けて、記憶もそのままに転生してもらいたいと思います。地球のように科学も同時に栄えているので生活水準は現代日本とほとんど変わりません。―


「あの……、あの?」


 私の声は聞こえていないのか。私も人に話をするのなんて久しぶりすぎてどれくらいのボリュームがいいのかわからなくなっているのかも。


 ―そして、なんとこの世界では魔王は倒されて、すでに平和な世界となっています。特に大変な思いをしなくてもいい生活が待っています!もちろんチート能力もよりどりみどり!!生活に不自由ない能力を選んでいただけます!!!―


 ドヤっ!と神様は「もってけ泥棒!」とでも言わんばかりに威張っている。そして、どうも、とても高待遇らしいな、その間宮さんとやらは……。残念なことに私は松下なの。


「私は……、ですが……。」


 精一杯の勇気を込めて自己紹介をする。


―そうそう!さんですよね!あなたは特別高待遇なのです!!……へぁ??????―

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