彩色の道

第5章 不明瞭な出自の怪談とその形成過程について


 これまでに見てきた例では、いずれもその時代背景や地理的要因、あるいは飢饉などの具体的な発生源が確認されていました。先の章で取り上げた「妖怪」の例(松川,2015)では、特に土地と結びついた「強固な」怪談が語られました。

 さて、近年ではこれらに対して、ある種の「出自不明な」怪談が目立つようになっています。これは主だってインターネットで見られるようになったものであり、土着性や同種の時代的背景を持つものではありません。インターネットという場に集まった、年齢も背景も異なる人々が作り上げた、背骨を持たない怪談です。


 ここに一つの例があります。「彩色の道」という「道」にまつわる怪談です。これは2018年8月頃を境にインターネット上で見られるようになったものです。この怪談は、主に帰りがけに迷子になったと主張する人物によって語られるものです。彼らは総じて「道に迷い全く知らない場所を歩いている」と主張し、その場所について「鮮やか」とか「カラフル」とか表現します。これが「彩色の道」と呼ばれる所以です。同様の投稿をした人物らは、いずれもそれ以降書き込みを行っておらず、インターネット上における消息不明状態にあります。

 さて、これらの例について、筆者は実際にその書き込みを行った人物の関係者に話を聞くことができました。


 前提として、この「彩色の道」は筆者が創作した怪談であることに留意してください。初めにインターネットに書き込んだ話―いわゆるプロトタイプについては、付属の資料を確認してください。


 今回インタビューさせていただいたのは、水渕 遥さん(仮名)です。水渕さんのご子息は2018年12月5日に「駅から帰る途中で道迷って、変なところに来た」と言った旨の書き込みをしました。以降の書き込みの傾向から見ても、水渕さんのご子息は「彩色の道」に遭遇したと考えられます。以下は、水渕 雄太さん(仮名)の葬式にて行ったインタビューの記録です。




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