開店1周年前日 11

 私は村上の話にだんだん引き込まれていった。開業時の苦労は誰にでもあるとしても、自分とは異なった経験はとても貴重だし、自分の励みにもなる。当然、そういうことを経て現在どうなのか、というところにも興味がある。


 話をそちらに持って行こうとして時、村上の電話の向こうで呼び出し音が鳴った。村上とはスマホ同士で話しており、営業用の電話でかけていたわけではないのだ。


「済みません、電話が入りましたので切らせていただきます。またお話ししましょう」


「お忙しいところ、ありがとうございました。またお電話します。頑張ってください」


 仕事の邪魔をするわけにはいかない。


 私は電話を切り、元気にやっている様子を聞いて、なんだか自分のことのように嬉しくなった。


 美津子は私の表情から心情を読み取り、言った。


「村上さん、上手く行っているようで良かったわね。あなたも元気をもらったみたいね」


「そうだね。久しぶりだけど、話してみるとそんなに日が経っているとも思えない。同じことを考え、実践している人を見ると改めてお店をやって良かったと思うよ」


「村上さんも、今のあなたのことを聞きたかったと思うけれど、先輩がどういう感じかを聞いたことで、また未来が見えてきたんじゃないの? 1周年を控えて、という日にはぴったりでしたね」


 私と村上の会話はスピーカーで美津子にも聞こえるようにしていたため、そのすべてを理解している。


 話が盛り上がったので途中で口を潤すこともできず、テーブルの上に置いてあるお茶も冷めていた。美津子も同様に話を聞いていたので、手にお茶は持っているものの、全く口を付けていない。2人ともそれだけ話に夢中になっていたのだ。


「お茶を入れてくるわね」


 美津子が言った。


「ちょっと待って。喉が渇いたから、冷めたお茶でも良いよ。ちょっと喉を潤すよ」


 私はそう言って、一気にテーブルにあった冷めたお茶を飲みほした。それを見た後で美津子は台所で新しいお茶を入れた。


 時計を見ると昼食の時間に近かった。せっかく入れてくれたお茶ということで、先ほど持って来きてもらった煎餅を食べることにした。


 村上と話したことを思い出しながら、2人でしばらく他愛のない話をした。


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