開店1周年前日 5
「私は村上さんのことは知らないので、どんな話をしていたか教えて」
美津子は同じように整体院をオープンさせた村上のことに興味持ったようだ。
ただ、私も近況はよく知らない。川合から聞いた程度の話しか分からない。
「今のことはよく分からないので、昔のことでも良い?」
「ええ、いいわ」
美津子は自分が知らないことに興味を示していた。
「俺たちは整体院をやる前には飲食店をやっていただろう。でも、川合さんと村上さんはサラリーマンだった。だから、すでに商売をやっていた俺たちとはちょっと違う考えでこの道には行ったようなんだ」
「ふーん。川合さんのことはちょっと聞いていたけど、村上さんもそうだったんだ」
「だから、最初は川合さんと村上さんが友達同士になっていて、俺がその中に加わったって感じかな」
この話をするなら、3人が仲良くなったところからのほうが分かり易いと思い、そのきっかけから話し始めた。
「この3人の中では俺が一番後に勉強を始めた。だからちょっと分からないようなことがあると、2人に質問していたんだ。そうするうちに親しくなり、授業の後、ちょっと一杯という感じになったんだ」
私はその時、昔を思い出し、目線は美津子から外し、お茶のほうを見ていた。親指で飲み口を触れながら、話を続けた。
「川合さんはお前も知っての通り、自分で会社を退職し、手に職を考えてこの道に飛び込んできた。でも、村上さんは新型コロナの問題で会社がおかしくなり、解雇されたんだ。それで仕事をどうしようかと相当悩んだらしい。それで選んだのが手に職を考え、会社に頼らず自分の手で未来を切り開く、と思ったそうだ」
私は村上の決心を話す時は美津子の眼をしっかり見ていた。
「そうなんだ。しっかり将来のことを考えていらしたのね」
美津子は村上の考えを理解したような感じではあるが、返事は今一つ軽い感じがした。実際にそういう話に加わっていたわけではないし、また聞きということもあり、心がこもった会話にはなっていない。初めて聞いたことだから仕方ないが、私は話を続けた。
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