【短編】バリキャリ肉食系主任(♀)はヘタレな草食系部下(♂)と仲良くしたい

橘まさと

第1話 上司の足を踏んじゃった

——1日目——

■???

 

「んあぁ、いい♡」


 普段は聞かない甘ったるい大神主任の声が僕の耳に届く。

 ドクンドクンと心臓がうるさいけど、これはあくまでも治療行為の一環だ。

 だから、我慢しなくちゃいけない……変な気を起こしてはいけないっ!


「お、大神主任……声がちょっと、その……」

「宇佐美クン。キミがどうしてこうなっているかわかるわよ、ね?」

「は、はい……」


 そうして、僕は主任の綺麗なつま先に包帯を巻きなおす。

 ただ、包帯を巻き直しているだけなのに、イケないことをしている気分だ。

 どうして、こんなことになったのか……それは月はじめの出社日である今日の朝に話が戻る。


◇ ◇ ◇


「うわぁぁっと、ととと……すみませーん」


 揺れる荷物を抱えながら、僕は廊下を歩く。

 僕は普段テレワークをしているものの、今日は月1の出社日なので出ていた。

 その際、虎川先輩から資料室への荷物運びを頼まれ、今も苦労をしながら運んでいる。

 

「宇佐美クン……それはさすがに持ちすぎではないのか?」

「あ、大神主任! だ、大丈夫です!」


 背丈が低く、華奢で未成年にも見られてしまう僕に向いてない仕事とは思うものの、頼まれた仕事はやり切りたいのが男というものだ。


「だが、見ているこっちが不安なんだが……あ!」

「わあぁぁぁ!?」


 僕と一緒に歩いてくれていた大神主任だったが、僕の持っていたダンボールの山が崩れそうになったところへ手を伸ばす。

 でも、僕は支えきれずに主任の足を踏んでしまったのだ。

 その後、医務室で見てもらったところ全治7日程度と診断されてしまう。


「ごめんなさい、主任……」

「宇佐美クン、キミに怪我のない方が重要だ。キミだったら骨折くらいしかねないからな」


 ふふふと笑う大神主任の姿に僕の胸が高鳴る。

 そう、僕は大神主任が好きなのだ。

 バリキャリでスラっとしていてりりしくもある主任と初めて仕事をしてからずっと役に立ちたいと思っている。

 仕事も頑張っていたのだけれど、上手くいかないのが最近だ。


「先生、主任は自宅療養なのでしょうか?」

「そうだねぇ……うん、大神さんは有休もたくさん残っているから休んだ方がいいね」

「いえ、テレワーク申請を出しますので自宅で仕事をします。今は休むわけにはいかないプロジェクトの最中なので」


 優しく休みを進めてくる医務室の先生に対して、主任はビシッと仕事を選ぶ。

 こういうところがかっこよくて、僕が好きになったところだ。


「それならば、宇佐美クンには私を自宅まで送ってもらうとしよう」

「え、えぇ!? 主任の家にですか!?」

「この足でふつうに歩ける訳ないだろう? それとも私に怪我をさせた責任をとらないというのか?」

「わ、わかりました! ご自宅までお送ります!」

 そうして僕は主任に肩を貸してタクシーを呼び、タワーマンションの高層階になる主任の家に送ったのである。

 

◇ ◇ ◇

 

 ……というのが、少し前までの話。

 今は主任をソファに座らせて包帯の巻き直しをしていたのだ。


「じゃあ、僕はこれで……」

「待ちなさい」


 立ち上がった僕の手を大神主任の手が掴んでくる。


「私はこのような状態であり、見ての通り生活力はない」

「自信もって言われても困りますが……そう、ですよね……」


 ソファの上をなんとか片付けたが足の踏み場がギリギリあるくらいの部屋だった。

 キッチリしている主任からは想像できない部屋の様子である。


「そこでだ、宇佐美クンもリモートワーク中なのは好都合。自宅療養に付き合ってくれ」

「え、えぇ!? 僕が主任と、どどどどど、同棲ってことですか!?」

「同棲といえば、そうかもしれないが……これは治療行為の一環だ。このリビングで寝泊まりしてくれればいい。このソファもソファベッドになるからな」


 ポンポンとなんでもないようすでソファを触ったことで、僕のことに脈がないと言われているようで意気消沈した。

 だけども、普段から主任の役に立ちたいと思っていた僕としては逆にチャンスでもある。


「わかりました。頑張ります!」

「では、早速シャワーをするので手を貸してくれ」

「!?>!??!?!」


 初日からこんな様子で、僕の心臓はもつのだろうか……。

 理性ともども自信がなくなってきた。

 主任に肩を貸しながら、二人三脚のように声を出しつつ進み、僕らはゴールである脱衣所にたどりつく。

 足元のゴミもどうにかしなくちゃいけない。


「すまないが、足がだいぶ痛むから脱がしてくれ……」

「は、はぁ!? ちょっと主任、それだけは勘弁して、ください!」


 この目の前の女性は何を言っているんだと僕は思う。

 逆に男として意識されていないのかとショックを受けるくらいだ。


「仕方ない……自分で脱いでみるが危なくなったら支えられるように見ておいてくれ」

「それも困ります!」

「わがままなやつだな……」

 

 妥協点として、後ろを向いたボクの肩に主任が手を置きながら服を脱いでいくことなる。

 シュルシュルと着ズレの音が僕の心をかき乱す。

 見ちゃダメだと思いつつも、僕の脳内では普段見るプロポーションのいい主任の裸が想像されていった。


「下着、難しい……な」

「そんな実況やめてください!」

「脱げ……とぉっ!」


 下着を脱げたのであろう主任だったが、バランスを崩して僕の方へのしかかってきた。

 柔らかい背中の感触と共に襲ってきたお腹への衝撃。


「へぶぅ!?」


 情けない声をあげた僕の顔に黒い下着がかぶさる。

 甘い香りがする……いや、そうじゃない!?


「あ、あとで来ますから主任は早くシャワー浴びてくだしゃい!」


 僕は急いでそこから抜け出して、トイレへと駆けこむのだった。

———————————————————————


読んでくださりありがとうございました。


テーマ「つま先」の短編作品です。

バレリーナも思いつきましたが、1万文字近い文字数になりそうもなかったので怪我させて治療する7日間的な話にしました。


すき焼きのためにこちらも短期連載していきますので、1週間お楽しみくださいませ。


↓カクコン10参加作品まとめ↓長編もあり。

https://kakuyomu.jp/users/masato_tachibana/collections/16818093090845723952

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