第2話 スパイ?
一瞬、その場の時が止まった気がした。
互いに固まる。
「お前、何をしている?」
いや、見れば書類をあさっていることはわかるのだが、一応聞いた。
「あ、えっと。」
何も言い訳できないようだった。
とりあえず殺すか?
情報を盗み出される前に。
執務室にはしっかりカギをかけていたはずだが、窓ガラスを割って入ったらしい。
窓ガラスが割れていた。
しかし、窓ガラスが割れる音に誰も気が付かなかったのか?
後で配下に注意しておくか。
流石に俺は一階のかなり離れた位置にいたからわからなかったが。
俺は魔力弾を作り出してスパイらしきものを殺そうとした。
「あ、あのっ、えっと、実はですね_、配下に加えていただきたく__て」
白髪のスパイらしき者は、事情を言い訳し始めた。
どうやら、スパイらしき者の言い分によると、配下にしてもらうには書類に名前を書かなければならない、ということを友達に聞いて、その署名する書類を探していたのだそうだ。絶対嘘だろう。
まあでも、嘘でも本当でも『契約』してしまえば一切俺の命令に逆らえなくなるがな。俺の配下が一切気が付かないようにガラスを割って執務室に入るとはなかなかの実力の持ち主だということだろう。『契約』しようかな?
「いいぞ。」
「へっ?」
スパイらしき者は驚いた様子だった。
「配下に加えてやると言っているんだ。」
「ほっ、本当ですか!?」
「本当だ。これ『契約書』だ。これ『名』を書け。」
俺は、書類の山をかき分け、一枚の紙を取り出した。
「あっ、はい。」
そう言って、彼女はそこに名前を書いた。
どうやら、本当に配下に加えて欲しかっただけならしい。
スパイかと思ったがそんなこともなかったのか?
名前はどうやら『コレット』というらしい。
「苗字は?」
「種族が人間なのですが、親がわからないので苗字がないのです。」
「なるほど。」
他の必要事項も特に逃げるそぶりも見せず、書いた。
後は、俺が署名をすると、『契約』が完了した。
「これで『契約』完了だ。」
俺がそう言うと、コレットは俺のことをキラキラとした瞳で見つめた。
「何か用か?」
「あ、いえ。あの、どんな仕事をしたらよろしいですか?」
そうだな。
余っている枠かー。どんなのがあったか。
とりあえずメイドかな?
「メイドとして働け。」
俺はそう言って、メイド服をどこからともなく取り出して渡した。
メイドのアイはかなり仕事ができる奴なので新人であるコレットに仕事を丁寧にきっと教えてくれるだろう。
「仕事の詳細はお前の先輩となるメイドのアイに聞け。」
そう言って俺はアイを呼び、コレットについて説明し、残りの説明を任せた。
―――――――
私が、契約書なるものを探していると、急に魔王様が転移で現れた。
一瞬、時が止まった気がした。
まずい。
書類をあさっているように見えたかな?
スパイと勘違いされちゃうかな?
配下にしてもらえるどころかこれ、殺されちゃうんじゃないの?
どうしよう。
どう言い訳しよう。
私がそう考えていると、魔王様は
「何をしている?」
と、聞いた。
見てわかるのに私に弁明の余地を与えてくれている。
優しい。
なんて良い人(?)なんだろう。
しかも、私が本当だけど信じてもらえないようなことを言ったのに、信じてもらえたのだ。そして、配下に加えてもらえた。
やったー!
小さい時から魔王様の配下になりたかったんだよね。
だって、みんな魔王様のことを悪く悪く言うんだもん。
絶対ありえないような極悪エピソードを小さいころから聞かされて育ったけど、その話にはところどころ不自然な点があった。だから私は、そのおとぎ話を作り話だと思った。それを自分の目で確かめるために、いつか魔王様の配下になろうと思っていたのだ。今、確信した。
この魔王様が絶対にそんなことをするわけがない。
わたしの嘘みたいな本当の言い分を聞いてくれるなんて素敵すぎる。
これが悪のカリスマ性とやらなのだろうか?
配下の人もみんな魔王様のこういう優しい面にひかれたのだろうか?
きっとそうに違いない。
それにしても、なんて長くてきれいな黒髪なんだろう。
そして、血のように美しく深い赤色。
きれいだなあ。
そう思って私が魔王様を見つめていると、
「何か用か?」
と、聞かれてしまった。
しまった。
つい、見とれてしまった。
「あ、いえ。あの、どんな仕事をしたらよろしいですか?」
私はとっさに思いついたことを言った。
魔王様によると、メイドの仕事をすればいいらしい。
私の得意分野なみたいだからよかった。
洗濯、掃除、家事などは小さいころから育ててもらった家で散々やらされたのだ。まさかその経験がここで生きることになるとは。
人生何が起こるかわからないものである。
とにかく、魔王様の配下にしてもらえて本当に良かった。
これから、魔王様の役に立てるように頑張ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます