第21話 済々の花蓮姫を守ってやれ。頼む 鷹宮Side
くっそ。
クソクソクソ!!
失礼……。
周りは俺のことを超絶美形だとかなんとか言って持ち上げているが、騙されてたまるか。
俺が愛する花蓮は俺が助けたことも覚えちゃいない。俺のことに真剣に恋に落ちた様子は皆無だ。
俺がそんなに見た目が立派ならば、少しは俺に靡くのではないだろうか。
ただ。
それでもだ……。
いや、嬉しいだろ。
どうにもならないほど嬉しいだろ……?
昨晩の花蓮は可愛過ぎた……。
愛してもいないのに、俺に全てを捧げると誓う花蓮は可愛過ぎた。これこそ、役得だろう。宮に生まれた世継ぎにしか、このようなことは許されないだろう……?
いや。
いや、そうじゃない、そうじゃない。
俺が今、自分に毒付いているのは、今まで自分が気づかなかったことにだろ?
なぜ花蓮が狙われたのか?
それは、てっきり俺が済々の家の一の姫の入内を熱望していたことが漏れたからだと思っていた。
だが、あの誘拐事件と繋がっていたとは……!
完全に盲点だった。
俺としたことが本当にバカ……。
皇帝が絡んでいると悟った時の美梨の震えはやばかった。
一瞬、爛々の優琳姫にバレるのではないかとヒヤッとしたぐらいだ。
おそらく、美梨のやつ、爛々の優琳姫の口封じをしようとしたはずだ……。
まさか殺しはしないが、他に心を奪わせておいて、皇帝に疑いが及ぶのを避けようと優琳姫の口を封じるつもりだったんだと思う。
美梨は、おそらく真実を悟ったはずだ。
俺と同じことを悟ったはずだ。
昼食のあと、花蓮は実家の済々の屋敷まで、時じいさんの文を昌俊に取りに行かせた……。
これから皇帝である父に分かった事実を伝えよう。
『どんだけ銀子を積んでも、あやつが済々の姫を妃にするのを止められん……。俺は本当に時の最高権力者なのか?俺の意見はまるで通らん。なぜ、あの姫なのだ……。たおやかとは言い難いぞ?地味に見えるが、とんでもない行動を取りかねない自由な姫だぞ。なぜ、うちの嫁になる?それでは困るっ!』
花蓮を入内させる前、父上が母上に泣きついた時の言葉だ。母上に会いに行こうとして、つい両親の会話を盗み聞きしてしまった。
『鷹宮のやつ、まんまと自分の希望を叶えよってからに……』
皇帝である父が嘆く声が聞こえた。
そう。
花蓮を妃にすることについて、皇帝である父上は大反対だった。母上は俺の意思の硬さを知っていて、ため息をついて諦めの境地だったように思う。
だがだ。
そもそもだ。
これは非常に大事な点だ。
なぜ、そもそも花蓮の社会的地位を抹殺させるような、あの誘拐事件が起きたのか?
父上は事実を知ったら、驚愕して意見を真逆に変えるに違いない。
俺と美梨の読み通りならば、花蓮は敵にとっては邪魔者でしかないはずだ。
昼食の席で事実に思い当たった俺は、すぐに選抜の儀の吏部尚書を担当する、あの髭面の
今、花蓮の周りは厳戒体制で警備がされていて、五色の特別部隊が警戒を担当している。しかし、吉乃にも小袖にも伝えられていない。
敵を油断させるためには、彼女たちにはいつものように自由に振る舞ってもらう必要があるからだ。
そして俺は今、皇帝である父上の元に向かっていた。皇帝である父は、この時間は
察子に任せた密偵の報告を受け取っているところかもしれない。
俺のもたらす知らせは父には朗報なはずだ。
きっと驚愕するぞ……!
昼食の後、美梨は小声で、夜々と冥々も怪しいかもしれないと俺に囁いた。
位置的に激奈龍に近い領地を治める冥々が加担しているとなると、事は重大だ。さらに、
2つの大家が関係しているとなると、今尚、大掛かりな謀反が進行している可能性がある。
「時じい」は、特別な人を意味するのだから。
俺は皇帝の自室の部屋の前まできて、立ち止まった。扉の前にいたお付きの者(宦官)がいそいそと知らせに行き、すぐに戻ってきた。
「鷹宮様こちらへ」
俺は案内されるがまま、机に向かって座る父の元に歩み寄り、「人払いをお願いします」と小さく囁いた。
皇帝はチラッと俺の顔を見ると、手を微かに振って、お付きの者を全て下がらせた。
「なんだ?今日は妃と前宮中の家を訪問したそうだが……ずいぶんと楽しそうだな」
俺は父にグッと身を寄せた。
「時のお方、ご無事」
俺はそれだけ小さく囁いた。
父はカッと目を見開いた。俺は驚愕した父上に耳打ちした。
「
皇帝である父は、真っ青になった。
「今朝、妃が狙われたと聞いたが、それが原因だな?」
「おそらく」
俺がうなずくのを見るや、父上からドス黒い声が飛び出した。
「磁山こちらへ!」
部屋の外に控えていた武官がすっ飛んで来た。
「
低いがはっきりとした声で語気強く命令を下した皇帝は、俺の顔を見つめた。
「今、どちらに?」
「文があると聞いておりますゆえ、取りに行ってもらっています」
「わしも見たい」
「分かりました。後ほどお持ちします」
俺が踵を返して出ていこうとすると、俺は皇帝である父上に呼び止められた。
父上は震えて泣いていた。
「済々の花蓮姫を守ってやれ。頼む」
「もちろんです」
俺はグッと唇を固く結び、父上にうなずくと、花蓮のいる後宮に急いだ。
俺の妃選抜の儀は、皇帝にとっても予期せぬ展開になったようだ。
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