第3話 花蓮はまるで分かっちゃいない 鷹宮Side①
権謀術数が
だが、俺にとっては負担だ。
俺は
22歳になって半年過ぎた。
ふーっとため息をつきたくなるが、人目にさらされる俺は我慢を続けている。
22歳という年齢は、妃を選ばなければならない年齢なのだ。
秋の爽やかな風が吹く今日この頃、宮廷にはただならぬ緊張感が漂っている。
緊張感の原因は俺にある。
鷹宮である俺が、22歳から23歳の1年の間に妃候補を1名に絞り込まなければならないと定められているからだ。そして、俺はまだ選んでいない。
いや?
正確にはとっくに心の中で決まっているが、愛しい姫にはちっとも振り向いてもらえない。
だから、結果的には公には誰も選んでいないことになっている。
俺の誕生日が5月であるために、妃候補を選ぶ期限まで半年を切った状態で、姫たちの実家の競争が熾烈を極めている。
少しでも鷹宮である俺の気を引こうとする妃で溢れ返る中で、明らかに俺の気持ちをひいたと思われた者は排除されたり、失墜させられてしまう策が謀られる。
だから、俺は迂闊には動けない。
しかしだ。今宵、事態は急変した。
どこからどう漏れたのか、俺が済々家一の姫である花蓮の入内を画策したという噂が漏れたという報告があった。
今宵、秋の宴の途中で俺はその報告をこっそり受けた。大臣たちが月を愛でながら、美味しい酒を酌み交わす宴席は、静かに盛り上がっていた。
実に美しい月が出ている宵であった。
旨い酒でも飲もうと思っていた俺は、報告を聞いて酒の入った盃を置いた。舞妓たちが舞う羽衣のような美しい黄色い衣が、黄金にも見える夜だ。
だが、一気に酔いが冷めた。
すぐに済々家一の姫の寝所に人をやったが、花蓮はおろか、お付きの侍女も済々家から来ている警護の俊昌という大男も姿が見えないと言う。
やられたか?
まずいっ!
「失礼、酒に酔った」
俺はそれだけ言うと、すっと宴の席を立った。父上が咎めるような視線を俺に向けているのを痛いほど背中に感じながら、居並ぶ重臣立ちの間をすり抜けて宴の席から出てきた。
廊下に出ると、すぐに光基が寄り添うように近づいてきた。
「
俺はギョッとして光基の顔を見返した。
「三絃崇山か?あそこは猪が出るぞ。確かか?」
その山は険しい崖も多く、猪に襲われる者が多いことで有名だ。熊も出る。
俺は眉を顰めて、まだ若い光基の顔を見つめた。光基は26歳だ。俺の子供の頃からついて来てくれている侍従だ。親友とも言える。俺のほぼ全てを知っている。
「はい。大層綺麗な衣を着た女人とそのお付きの女人、大男の3人が山に入っていくのを見たという報告があります」
くそっ!
おそらく謀られた……。
はめられたんだ。
いても立ってもいられない。
すぐさま助けに行かねば!
「宮!危のうございますっ!」
光基は俺が何を考えているのか分かっている。
「せめて兵を連れて行って網羅的に探さねばなりませぬ。もうとっくに日が暮れております」
俺は走りかけた足を止めて光基を振り返った。
「宮第一専属五色を使う!」
俺は光基に言い放った。光基は事の重大さを承知しているだけに、少しのためらいもなく「わかりました」とだけ言って、全速力で走り去った。音もなく。
俺は自分の部屋に飛ぶように戻り、来ている紫の絹の装束のまま、山戦闘用の靴に履き替えた。
着替えている暇などない!
花蓮が危ないのだっ!
宮廷宴用の帽子を殴り捨てると、弓矢と剣をつかみ、そのまま部屋を飛び出した。
裏門には既に馬が用意されていた。光基も馬に乗っていた。用意されていた馬に飛び乗り、俺はそのまま裏門を飛び出して、夜の都の街を走りに走った。
途中で密かに宮第一専属五色が隊列を組んで必死について来ているのに気づいたが、俺は構わずに三絃崇山まで走った。
空には星が輝き、秋の風は心地良く、満月が美しかった。本来であれば花蓮は侍女らとのどかに月見でもしていたのではないかと思うと、胸が痛かった。
どうか無事でいてくれ!
お願いだからっ!
ごめん、俺が入内を画策したから、こんな目に……。
俺は泣きたかった。だが、俺が辛い目に遭っているのではない。今、花蓮は猪に襲われているもしれない。俺の心は心配で狂いそうだった。
済々の一の姫の入内は、俺が何度も頭で思い描いていたのとは全く違う、予期せぬ展開になった。
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