雪解けの向こう

うるさいマイク

第1話 孤影

冷たい風が頬を切るように吹き荒れる冬山。新堂悠は深くフードをかぶり、雪道を一歩ずつ踏みしめながら進んでいた。彼の周囲に広がる白銀の世界は、静かで孤独だった。その静寂を愛していた。いや、他者と関わらないことで自分を守っていると言った方が正しいだろう。


過去の失敗や裏切り、傷つけ合う日々が、悠をこの冬山へと追いやった。誰とも交わらず、誰からも頼られない日々。人間関係を切り捨てた彼にとって、ここは心の安息地だった。


しかし、その日、彼の安寧は破られる。降り続く雪の中、かすかな声が聞こえた。


「た、助けて……」


足を止めた悠は、耳を澄ます。風の音に紛れてしまいそうなその声は、確かに人間のものだった。嫌な予感が胸をよぎる。


「誰か、いないの……?」


雪の向こうに、動く影が見えた。近づいてみると、そこにいたのはひとりの少女だった。小柄な体を震わせ、手袋のない手で雪を掻き分けている。


「……大丈夫か?」


そう声をかけると、少女は驚いたように顔を上げた。赤く染まった頬と怯えた目。彼女の唇が震えているのが見て取れる。


「……助けてください。迷子になって……帰れなくて……」


彼女の声は弱々しく、風に消えそうだった。


悠の胸に、躊躇いが生まれる。この少女を助ければ、自分の静かな日常は崩れるだろう。彼女の世話をし、下山させる責任を負わなければならない。だが、もし彼女を放置すれば、命の危険があるのは明らかだった。


「……待ってろ。助けるから」


その言葉が口をついて出た時、悠の中で何かが小さく崩れる音がした。それは長年彼を守ってきた「孤独」の壁だった。


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