つま先の正しい使い方
矢芝フルカ
第1話
「さあ、ネイト! 思い切って跳んで来るのだ!」
校舎の屋根の上から、アシュリーの声が降ってくる。
地上に居るネイトは、少々戸惑っていた。
「どうしたネイト! 上を見るのだ! 私はここだぞ!」
分かってるよ!
けどさ! スカートだよ?
スパッツ履いていたとしてもだよ?
これでも男子なんだからさっっ!!
「ネーイート!!」
ああ、もう、仕方無い。
ネイトは、下げた眼鏡のすき間から、校舎の屋根を見上げた。
ぼんやりと、アシュリーが立っているのが見える。
彼女の長い髪と、制服のスカートが、風にはためいているのも、何となく見える。
安心したような……残念なような?
ネイトはハッとして、ブンブンと首を振った。
「跳んで来るのだ! 君ならできる!」
できる……かな?
ネイトは「ふぅ」と息をついて、
自分の足に、手を添える。
「地に縛る鎖を今、解き放て!
呪文が終わったと同時に、ネイトの身体は、弾かれた玉のように、びょーん! と空へと跳び上がる。
「うわわわっ!!」
高く高く跳び上がって、校舎の屋根に居るアシュリーの姿が、たちまち小さくなる。
「跳び上がりすぎだ、ネイト! 空を飛ぶ魔法では無いのだぞ?」
アシュリーの声が、遠く聞こえる。
跳んだ瞬間、眼鏡がズレて、景色がおぼろげにしか見えないことが幸いした。
ハッキリ見えていたら、気絶する高さだろう。
アシュリーが言ったように、
自身の
だから……
この後は……
高く跳び上がったネイトの身体は、放物線の頂点に達すると、そのまま頭から落下して行った。
「わぁぁ~!
とっさに呪文を唱えると、急降下していたネイトの身体は、頭から屋根に激突する寸前で、フワンと浮いた。
「そら、言わないことでは無い」
屋根で待っていたアシュリーが、ネイトの手首をつかんでくれる。
それを支えにして、ネイトやっと、は屋根に足を付けることができた。
「ネイトは、
首を傾げるアシュリーに、
「浮遊魔法は
ネイトは説明を始めるが、自分で自分が何を言っているのか、よく分からない。
アシュリーがまだ、ネイトの手首を握っていた。
アシュリーの手は、ひんやりと冷たいのに、ネイトの顔は熱くなる。
「ネイトの話は難しくて理解できない」
と、アシュリーが首を振った。
だよね……
言ってる僕ですら、理解できない。
君のせいだ。
君が手を離さないから……
魔法騎士養成学校は、その名の通り、魔力と武力を兼ね備えた騎士を養成する学校である。
ネイトとアシュリーは、この学校の同級生だ。
魔法と魔術に関してならば、常に
そもそもネイトは、運動能力を求められることが、あまり得意では無い。
それでも、奨学生であるネイトは、上位の成績を維持しなければ、学校に居られない。
そのため、校内屈指の体育会系、アシュリーの特訓を受けているの、だが……
「つまりネイトは、魔力に頼りすぎるのだ。君の身体能力よりも、魔力がはるかに勝ってしまっている」
いつになく理論的なアシュリーに、ネイトは返す言葉が無い。
「あとは魔法を発動させるタイミングだな。まだ足が地面に付いているうちから発動させてしまうから、身体が付いていかないのだ」
うっわ……
アシュリーから、魔法を教えられるなんて!
しかも反論できないぐらい、的確な指摘!
ネイトはがっくりと肩を落とす。
魔法に関しては自分が上だと自負があった。
それが、いともあっさり覆されて、自信喪失もはなはだしい。
「つま先の使い方だよ、ネイト」
アシュリーがニコッと笑う。
その笑顔はすごく可愛いけども……
「つま先?」
使い方……って、何?
ネイトは
続く
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