第11話 親愛なる世界

 背後で〈聖なる炎セイント・フレイム〉が燃え盛る中、私たち生徒は野営地にあるステージの前へと集められていた。


 すると、ステージ上に、鎧をガシャリと音を立てながらゴルドが現れた。


「生徒諸君、本日の訓練ご苦労だった。まあ、ほとんどの生徒が脱落してしまったのが、残念でならないが」


 一言多いゴルドの発言に、訓練を途中で棄権してしまった生徒たちが俯いてしまう。


 ――あのクソひげジジィ、また余計なことを……っ!


「明日は訓練最終日だ。今日みたいに気を抜かず、しっかりと取り組んでほしい」


 ――ぽっと出のヤツのくせに、何を偉そうなこと言ってんだよ、殺すぞっ!


 どうもああいうタイプの人を見ると、自分の悪い部分が顔を出す。


 まだゴルドが話を続ける。


「ところで、予定ではこのあと、“フレイム・ジャグリング”などの余興をするそうだが、どうなっているんだ?」


 リズ先生の失踪、精神不安定での訓練の強行と続けば、生徒たちの気持ちは、それどころじゃないはずだ。


 すると、ステージ上にカーリン先生も登場した。


「みなさん、本日はお疲れさまでした。最終日の明日も無理せず頑張ってください。そこで、ゴルドさんがおっしゃっている通り、今回の野外学習での予定であれば、今からこのステージで余興を披露することになっています。こんな状況ではありますが、予定通り、“フレイム・ジャグリング”を行いたいと思います」


 カーリン先生の言葉に、生徒たちの動揺は隠せない。


「えっ? この状況でやるの?」

「私、そんな気分じゃないんですけど……」

「テント戻って休ませてほしいよ……」


 横にいるミアと目が合うと、ミアはニコッと笑い、


「逆にこんな状況だからこそ、何か一つでも楽しみがないといけないのかもね」

「ミア……その、大丈夫?」


 リズ先生がいなくなり、森でゴブリンとの戦闘。

 ミアの精神は疲弊しているに違いない。でもミアは少しでもみんなの気持ちを軽くしようとしている。


 ――本当にミアは強くなったね。


 転んで膝を擦りむいて泣いている少女はもういない。


「心配してくれて、ありがとね、ステラちゃん。ミアは大丈夫だよ」

「本当?」

「うん。じゃあ準備してくるから、ミアの演技ちゃんと見ててね?」

「うん、ちゃんと見てるよ」


 ミアは、カーリン先生の指示により、“フレイム・ジャグリング”の準備をするため一度テントのほうへ戻っていった。


「ああ、それと。ここには、妙な魔法を使う生徒がいるらしいですな、カーリン先生?」


 ――まだいたのかよ、クソひげジジィ。てか、妙な魔法を使う生徒って…………。


 ステージ上のカーリン先生と目が合う。

 一度、私とゴルドを交互に見た後、カーリン先生は私を指差し、


「…………彼女です」

「ほう?」


 ――あの鉄仮面ババア、他人事だと思って私を売りやがったなっ!


 ゴルドがステージを飛び降り、ガシャンと音を立て着地した。

 そのまま私のほうへ近づいてくる。


「君はたしか、マルクスとかいう少年がゴブリンに追われていたところを助けた子だったかな?」


 ゴルドが私の前に立ち、私はゴルドを見上げる格好になる。


「……そ、そうです」


 私が答えると、ゴルドは腕を組み、笑い出した。


「ガハハハッ! 訓練も最後まで残っていたし、君は魔法使いとして、なかなか筋がいいのかもしれないな!」

「あははは、どうもー」


 ゴルドに褒められても、まったくうれしくないのだが。

 私は愛想笑いだけを浮かべ、この話が早く終わることだけを願っていた。


「それで? 妙な魔法とは一体どんなものなのだ?」


 ゴルドの顔がグイっと私のほうへ近づいた。


「えっ…………!?」


 思わず、仰け反ってしまうが、ゴルドは逃がしてはくれない。


「悪いが、ちょっと見せてもらえないだろうか?」


 ――なんでそこまで私に興味を示すんだ……?


 鳥肌が立っていることがバレないように、私は自分の体を抱き、答える。


「ええっと……そ、そんな大したものじゃ、ないんで…………」

「それは私が決めることだ」


 ――ほんとこういう強引なタイプ、嫌い。


 とはいえ、これ以上拒否し続けても時間の無駄だろう。

 早く終わらせて、純粋にミアの演技を楽しみたい。


「……わかりました。お見せします……」

「おお、よく言った! 私は素直な子は好きだぞ」


 ――私はあなたが嫌いだ。


 私とゴルドの会話をステージ上で聞いていたカーリン先生が私に言う。


「ステラ、こちらへ」

「はい?」


 カーリン先生は、私にステージに上がるようにと言いたいらしい。

 そこまでしなくてもいいんですけど…………。


 仕方なく、私はステージへ上がるための階段に向かう。

 すれ違いざまで、カーリン先生が小声で語りかけてきた。


「ステラ。どうか、お願いしますね」

「えっ?」


 カーリン先生はそれだけを言い残してステージから離れたほうへ歩いて行く。


 ――どういうこと……?




       ***




 私は一人、ステージの真ん中に立っている。


 ほかの生徒たち、カーリン先生を含めた引率の先生、それとゴルド。

 その全員の視線が私に向けられている。


 ――なんだろう? 不思議と嫌な感じがしない。


 むしろ、前世のとき、まだまだ無名に近かったころに出演した野外フェスを思い出し、武者震いする。

 あのときも今のようにアウェー感が半端じゃなかった。

 それでも私は歌い、私の歌で静まり返る会場を一気に爆発させた。


 ミアも、少しでもみんなのために頑張ろうとしている。

 ならば、親友の私も頑張らなきゃ。


 私は覚悟を決め、歌う。


 歌う曲は、今までとは違い、前世のときに作ったオリジナル曲。

 私を音楽の道へ導いてくれた、最初の曲。


「聴いてください、『ディア フレンズ』」


 スゥー。


『響く足音 放課後の教室 私たちだけの世界に――』

『キミだけを 置き去りにして――』


 前世の私は中学時代、ある理由で不登校だった。


 その理由とは、よくある話かもしれないが、“いじめ”。

 ただ、いじめられていたのは、私じゃない。

 中学から仲良しになった、たった一人の私の友達。

 彼女は、クラスの他の女子たちから執拗にいじめを受けていた。


『やまない雨に打たれ 溢れ出しそうな感情――』

『それでもきっと 明日は晴れるから――』


 理由は単純だった。

 ある女子の好きな男子が、彼女に告白した。

 しかし、彼女はある女子が、その男子に好意を抱いていること知っていた。

 だから、彼女は告白を断った。そしたら、“いじめ”が始まった。


『そばにいてほしい なんて 言えない――』

『ずっと一緒 なんて 言えるはずがない――』


 私は彼女が“いじめ”を受けていることに全く気が付かなかった。

 彼女の手首に残る傷を見るまでは。


『響く足音 放課後の教室 二人だけの世界――』

『キミだけを 置き去りにして――』


 “いじめ”に気付いた私は、ある女子を殴った。

 私は一か月の出席停止を受けた。

 一か月の出席停止が終わり、登校すると、私の席だけなかった。

 立ち尽くす私を見て、彼女は、ある女子と一緒に笑っていた。


『響く足音 放課後の教室 二人だけの世界――』

『私だけを 置き去りにして――』


 それから私は不登校。

 でもそれでよかったと思う。

 彼女の笑顔が取り戻せたから。

 あのときの私はそれが何よりも、うれしかった。


 メロディが流れるスピーカーもなければ、伴奏を弾いてくれるバックバンドもいない。完全にアカペラで歌いきる。


 歌い終わった私の頬になんだか熱いものが伝っている。


 目の前に向き直ると、


「す、すごーいっ! 今のなにー!?」

「なんか、震えちゃったよ……」

「俺も、なんだか涙が……ぅ……」

「ステラ~! かっこいいぞーっ!」


 ステージ前にいる生徒たちの感想が聞こえ、気づけば拍手喝采。


「ステラ! ステラ! ステラ!」


 さらには、ステラコールまでされていた。


 ――みんなの気持ちを少しでも軽くできたかな?


 辛いときは、逆に涙を流すと、気が晴れることがあるって、昔テレビで言っていたことを思い出し、この曲を選び歌った。


 私としては、みんなが感じた悲しみもあるが、どちらかと言うと、彼女と私がそれぞれの未来へ進むための、過去への決別という思いで作った曲。


 ――あの子、元気にしてるかな?


 ふと、ステージから遠くに立っているカーリン先生と目が合う。

 カーリン先生の口角がうっすら上がっている。そして小さく拍手を送ってくれていた。


  私は、ドヤ顔でそれに答える。


 すると、ゴルドが拍手をしながら、ステージに上がってくる。


「素晴らしいじゃないか! エレメントフェアリーの数が尋常じゃないっ!」

「おお~。本当ですね」


 見上げると、昼間かな?と錯覚するくらい明るい。

 フレイム、ウィンド、それと近くの川から来たのか、アクアフェアリーと、輝く羽を羽ばたかせた異なる属性のフェアリーたちが空を飛び回っていた。


「これほどのフェアリーを呼び寄せられるとはな! これはいったい――』


 ボオウッ!


 ゴルドが興奮気味で何かを言おうとした瞬間、〈聖なる炎セイント・フレイム〉が激しく燃えた。


「な、何だ!? 〈聖なる炎セイント・フレイム〉がっ!?」


 ボオウッ! ボオウッ!


 〈聖なる炎セイント・フレイム〉はさらに激しく燃える。


「みなさん、下がってっ!」


 カーリン先生が珍しく声を荒げ、生徒たちを背に〈聖なる炎セイント・フレイム〉の前に立つ。


『久しいなァ、“ウタイビト”とは』


 ――ッ!?


 その声は燃え盛る〈聖なる炎セイント・フレイム〉の中から聞こえた気がした。


 その 〈聖なる炎|《セイント・フレイム》〉はさらに激しく燃え、やがて、人の姿へと変貌する。


「あ、あれは……っ!?」


 隣に立っているゴルドが、目を見開き驚愕していた。

 そして、カーリン先生も同じ表情をし、


「〈炎焔の王〉ヴォルガダルガ…………!?」

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