第10話 優しい世界

 「マルクスッ!」


 私は野営地に着くなり、燃え盛る〈聖なる炎セイント・フレイム〉の前で膝を抱えて座っているマルクスへと詰め寄った。


「ス、ステラ!? そ、それにミア!? よかった、無事だったのか……」

「何が『よかった』よっ! 私たちのこと置いて行ったくせにっ!」

「うっ…………」


 ミアが慌てて駆け寄ってきて、私の肩に手を置く。


「ス、ステラちゃんっ!? ちょっと落ち着いて? ねっ? 結果的にはマルクスの言う通り、ミアたち無事だったんだからさ」


 ミアに制止されるも、私はどうしても言わなきゃならないと思ってしまう。


「そうだけど、そうじゃないでしょ? マルクス! 何でゴブリンなんかに追われてたのよ? もしかして、また何かしたんじゃないでしょうねっ?」

「ま、またって何だよ、またって! 人のことなんだと思ってんだよっ!」

「じゃあ何もしないで、ゴブリンに追われたってわけ?」

「そ、それは…………っ」


 口ごもるマルクス。

 煮え切らない態度に、私は再び叫ぶ。


「何とか言いなさいよっ!」


 先ほどに続き、野営地全体に私の声が響き渡る。

 ほかの生徒たち、引率の先生、それにゴルドまでもが私たちを見ている。


 そんな中、抑揚のない声が近づいてきた。


「ミア・クロウリーの言う通りです。少しは落ち着きなさい、ステラ」

「カーリン先生………………っ!」


 カーリン先生は〈聖なる炎セイント・フレイム〉の反対側から私たちのほうへ歩いてくる。


「事情はすでに、マルクス・アレンハルドから聞いております」

「なっ…………!?」


 ――ゴブリンに襲われ、死にかけたやつには言わなくて、自分を守ってくれる先生にはすんなり話したってわけ?


 カーリン先生からマルクスへ視線を移すと、マルクスはあからさまに私から視線をそらした。


 ――この野郎……ッ!


「……じゃあ、カーリン先生。私たちにも教えてください」

「できません」

「は? どうしてですか!?」


 今度はカーリン先生に詰め寄った。

 しかし、私に詰め寄られても表情一つ変えず冷たい視線で私を見下ろしてくる。

 

 ――ゴルドに言い負かされて、さっきまでうなだれていたくせに!


「できないものはできません。そんなことよりも、二人とも無事で何よりでした」


 それだけを言い残し、踵を返すカーリン先生を私は制止する。


「答えになっていません! こっちは初めての魔物相手に死にかけたんですよっ! 私たちにも知る権利があると思いますが!?」


 カーリン先生は振り返り、私と目が合う。

 すぐにカーリン先生は、ちらりとマルクスのほうへ視線を向けて、


「私が言えることは何もありません」


 そう言うとカーリン先生は再び踵を返す。

 今度は振り返ることなく、引率の先生たち専用の大きいテントへと戻っていった。




      ***




「何なの、あの人っ!」


 ミアと一緒に自分たちのテントに戻るなり、私は寝袋に八つ当たりしていた。


「ありえないっ! 何が『私に言えることは何もありません』よっ! マルクスなんかを庇ったりして! 生徒ひいきよっ! 教育委員会に訴えてやるっ!」

「まあまあ。落ち着いて、ステラちゃん。もし、マルクスが大変なことをしちゃったとしても、先生たちに知られているなら、もう何も起こらないと思うよ?」

「そうだけどぉ…………」

「はいはい、ステラちゃん。おいで?」


 ミアが座る自分の膝をポンポン叩いている。


「…………うん」


 私は素直に、ミアの膝に頭を乗せた。

 すると、ミアが優しく私の頭を撫でてくれる。


「ありがとう、ステラちゃん」

「えっ?」

「だって、ミアのために怒ってくれたんでしょ?」


 ――ミアにはお見通しってわけね。


「ミアはわたしのことなら何でもわかっちゃうんだね」

「あははっ。さすがに何でもは無理だよ~」


 ――いや、本当に私のことよく見ていると思うよ。


 だから私は、そんなミアに甘えてしまうんだ。


 私は手を伸ばし、そっとミアの頬に触れた。


「ミアこそ、ありがとう。わたしを助けてくれて」

「それ、さっきも聞いたよ?」

「何度でも言うよ。ありがと、ミア。これからもわたしを助けてくれると嬉しいな」

「………………」

「ミア……?」


 私を見下ろすミアは微笑んでいたが、ほんの一瞬だけ影が差した気がした。

 すると、ミアが急に私の脇の下に手を入れ、くすぐってくる。


「それはどうかな~っ!」

「あははははっ! や、やめ、やめて、ミア! んふふっ、あはははっ!」


 すると、突然テントが開けられ、


「ミア、ステラ~。予定通り、ステージで――」


 じゃれ合う私とミアと目が合う同じクラスの女子。

 私は何も見てないよと言わんばかりの無言でテントを閉じた。


「ち、違うからねっ!? ねえ、ちょっと? お願い! 話を聞いてっ!?」


 私の必死の制止も虚しく、私とミアが、そういう仲なのか?という噂が広まった。

 

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