いじめのけじめ
木全伸治
いじめのけじめ
「誰か助けて!」
という声が聞こえたので、またかと、私は周りを見渡した。すると近くの電柱の根元に花とお菓子が置いてあった。私は、自販機で缶ジュースを買い、その花のそばに置き、お経を唱えた。我流で覚えた経なので、高尚なものではないと思っているが、「ありがとう」という声が聞こえ、声の主の気配は消えた。
そう、私には霊能力がある。でも、それを生業にしているわけではなく、普通のOLとして生活していた。うちのおばさんが、主婦をしながら除霊を行っていたその筋では有名な霊能力者だが、私には、小さい頃からその力のこと、あまり人には話さない方がいいと忠告してくれていた。
実際、私にも霊を感じる力があると言って近づいてきた無能力者の女子や、どうせインチキだろという男子まで、様々な人がうざいほど寄ってきた。で、OLになる頃には、私の力は、両親やおばさんなど一部の縁者しか知らず、会社の同僚にも知っている人はいない程度には秘密にしていた。でも、中学生ぐらいのガキの頃、親しい友人にならいいかと、ぽろりと話してしまい、そして、今日も、その中学時代の元同級生から、ある人たちに会ってほしいと頼まれ、その待ち合わせの喫茶店に向かっている最中だった。
事前に事情は聞いていた。高校生の頃、いじめをしていて、その子が最近自殺し、それから、いじめていた連中が次々と死んでいっているので、そのいじめてた子の呪いじゃないかと、で、私に何とかしてほしいと。正直に言うと、いじめてたお前らが悪いんじゃないかと、自業自得だと感じてたが、さすがに、このまま突き放すのもかわいそうだと思い、とりあえず、会ってみることにした。
一人は頭の悪そうなチャラ男で、残りの二人はいかにも呪いを恐れてます風な女子大生だった。
「で、いじめてた男子のほとんどが死んだと」
「はい、そうなんです。男子で残ったのは、この中村君だけで。次は、あたしら女子じゃないかと」
なるほど、この生きている中村君というチャラ男の心配ではなくて、次は自分たち女子かもという不安で、相談か。
「男同士で車に乗ってて、男子は事故ったんでしょ、それって呪いじゃなくて、ただの偶然で、生き残ったそこの君は、友達と出かけなくて、ただ運が良かったということでしょ」
「だよな、俺は運が良くて死んだ奴らに運がなかっただけだよな」
チャラ男が呪いなんてあるわけないという顔で言う。けど、女子大生の子らは違った。
「けど、警察の調べでは、事故原因は不明だって」
「運転してた子も飲酒等はしてなかったと」
「ふ~ん、なるほど。でも、あんたたちから、死者からの呪詛の類は感じないけど」
「そうですか」
「で、確認するけど、そのいじめられてその後自殺した子の墓前に誰か墓参りに行ったの。死者から呪われてると思うなら、まずその墓前で謝罪すべきでしょ」
「は、はぁ・・・」
どうやら、墓参りはしてないようだ。
「それから、その子へのいじめの具体的な内容を覚えてる限り正確にノートに書いて、その子のご両親に渡して、謝罪してきなさい」
「謝罪、ですか」
「死者の呪いが気になるなら、その墓前に謝罪が当然だと思うけどね」
私は霊能力者であるが、誰でも懇切丁寧に助けるという聖職者ではない。
「私にできるアドバイスは、これだけ。私のアドバイスが気に入らないなら、高い除霊料を要求する他の霊能力者に頼めば」
私は、そう言い捨てて、自分の飲んだコーヒー代を置いて喫茶店を立ち去った。
他に彼らに言わなかったことがある。それは、自殺した子の両親の生霊が彼らの背後にいたことを。たぶん、彼女たちの言う通り呪いは間違っていない。ただ、その呪いのもとが死者のそれ、ではなく、生者の恨みであったのだ。
後日、そのいじめっ子だった子の告白ノートをもとに両親が学校の先生らの管理責任を訴えたとニュースで知った。
いじめのけじめ 木全伸治 @kimata6518
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