先輩の書いた異世界は実在するよ

横切カラス

第1話

夕日が差し込む放課後の部室。

窓際で夕日を反射する綺麗な黒髪美人の先輩、風音かざね りんはスマホに集中している。


ここは文芸部。

部室に居るのは僕と先輩だけ。

そして先輩は現在執筆中。



「やった。

フルコン」



可愛く小さなガッツポーズしているけど執筆中。

つまり部活動中。

そんな先輩を見てるだけの僕はサボり中だ。



「カイ君。

そんなに見られてると気になるのだけど」



先輩は執筆に集中してるのか、スマホから目を離さずに言った。



「先生の執筆の邪魔をしたら悪いと思って」


「それは嫌味かい?

どう見たってゲームしてるじゃないか」



先輩はスマホの画面を見せながら抗議して来る。

画面よりも先輩の整った顔の方に目が行ってしまう。



「遊んでると見せかけて……」


「普通に遊んでいただけだよ」


「先生ったら謙遜して」


「そんな謙遜などしない。

あと、その先生ってのは辞めてくれないか?

私もカイ君と同じ高校生だよ」


「何を言ってるんですか先生。

先生はもう作家としてデビューした先生だよ。

先生の小説はもう本屋に並んでるんだよ。

先生を先生と呼ばずして――」


「カイ君」


「なに?」


「わさとだよね?」


「うん」



僕はテヘペロってお茶目に舌を出す。

先輩は恨めしそうな目で睨んで来るけど気にしない。

むしろご褒美だ。



「でも先輩は羨ましいな〜

夢の印税生活だね」


「あのねカイ君。

印税だけで暮らせるなんて簡単な事では無い。

元より私は小説家として生計を立てるつもりは無いよ」


「なんで?」


「私レベルの作品なんて山ほどあるさ。

ただ現役女子高生が少しお色気要素の強い異世界ファンタジーを書いてるって言う話題性だけで売り出しただけ。

その賞味期限も今年いっぱいだよ」


「今時は女子高生作家なんて珍しい事じゃないよ。

でも先輩程の美人はいないね。

だって先輩は世界一の美人だから」


「はいはい。

お世辞でも嬉しいよ」


「お世辞じゃないのに」



先輩は再びスマホに視線を戻して執筆し始めた先輩の横顔は夕日に照らされて赤く染まっていた。



◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆



私の一つ下の後輩、カイ君は私を揶揄うのが好きらしい。

今も世界一の美人だとか言って揶揄いながらずっと見てる。

おかげでさっきからゲームでミスを連発してクリアする事が出来なかった。



「スタミナが勿体ないじゃないか」


「僕が何かした?」


「あのねカイ君」



私は彼の方を見る。

本当に何をしたかわからない顔をしてるのが無性に腹が立つ。



「ずっと見られているのが気になるの」


「あまりにも美人だから見惚れてたんだよ。

でも仕方ないよ。

先輩は世界一の美人だし」



カイ君はにっこりと微笑んで心臓に悪い事を言ってのける。


私だって自分が美人なのはわかっている。

発育だっていい方だってのも。

だけど世界一と言われると流石に言い過ぎだ。



「カイ君。

君は私の事が好きなのかい?」


「好きだよ。

僕は先輩のファン第一号だから」



いつ聞いてもカイ君は一切照れずに同じ返事をする。

絶対に揶揄ってる。

思春期の男子高校生が照れずに言えるはずが無い。

てか全く照れないのも失礼じゃないか?



「カイ君は私と付き合いたいのかい?」



なんて自意識過剰な奴だとは自分でも思う。

なんか恥ずかしくなって来た。

でも流石にこれで少しは照れるだろう。



「やったー

今日から先輩が彼女だ」


「そんな話はしてない!」


「なんだ。

残念」


「今のが告白になるわけ無いだろ」


「そうだね。

先輩ならきっとロマンチックな告白をしてくれるね」


「誰が君に告白すると言った?」


「なら僕が先輩にするね」


「なっ!?」


「いつか」



私はスマホに視線を戻してゲームを再開する。

だけど心臓の音が煩いからミスばかり。


またやられた。

なんで恥ずかしげも無くあんな事言えるんだ?

私ばかりドキドキして不公平だ。

ほら、またクリア出来なかったじゃないか。


ふとスマホの画面が消えて辺りが真っ暗になった。

視線を上げると真っ暗の中に魔法陣が浮かび上がる。

そこから大柄の男が出て来た。



「貴様をスパイ容疑で身柄を拘束する」



そして私はなす術なく異世界へと攫われてしまった。

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