2章: 身体の声を聞く(身体の浄化)(前編)

▢▢▢ 病と向き合う ▢▢▢


 山中健吾やまなかけんごは診察室の冷たい椅子に座り、医師の話を黙って聞いていた。慢性疾患と診断されたのは5年前。それ以来、日常のほとんどが病気との戦いだった。


「この薬を続ければ症状は抑えられると思います。ただ、根本的な治療法はまだ見つかっていません。」


 医師の言葉に健吾はかすかにうなずいた。しかし、心の中では「これ以上、このままでいいのか」という思いが渦巻いていた。


 健吾の主な症状は慢性的な疲労感、筋肉の痛み、そして度々襲う原因不明のめまいだった。それらは、かつて精力的だった彼の生活を大きく変えてしまった。友人との交流が減り、楽しみにしていたスポーツも辞めざるを得なかった。営業職として全国を飛び回っていた日々は、遠い過去のように感じられる。


「これが俺の人生なのか…」


 診察室を出た後、健吾はふと目に入った小さな古本屋に足を止めた。気まぐれで店内に入ると、埃をかぶった本がぎっしり並んでいた。その中で、妙に目を引く一冊が目に入った。


「浄化の書」


 古びた装丁そうていには、まるで健吾を見透かすような強い存在感があった。恐る恐る手に取ると、カウンターにいた店主がにっこりと笑った。


「いい本を見つけたね。」


「えっ…どういうことですか?」


「本が人を選ぶこともあるんだ。試してみるといい。」


 不思議な感覚に駆られながらも、健吾は本を購入し、帰路についた。


▢▢▢ 初めての浄化 ▢▢▢


 その夜、健吾は「浄化の書」を手に取り、書かれている瞑想の章を読み始めた。


「呼吸を整え、体の中に滞る負のエネルギーを意識し、それを解き放ちなさい。」


 半信半疑で目を閉じた健吾の心には、これまでの生活の中で抱えた怒りや悲しみが次々と浮かんできた。それを一つ一つ見つめ、手放すイメージをする。


「本当にこんなことで…」


 しかし、不思議なことに瞑想が終わった後、体が軽くなったような感覚を覚えた。


「これが浄化なのか…」


 少しだけ光が差し込むような気がした。


▢▢▢ 次回:中編「浄化の道」 ▢▢▢


 本との出会いを通じて新たな可能性を見出した健吾。しかし、さらなる試練が彼を待ち受けている——。




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