つま先まで愛して

無雲律人

前編

「綺麗だよ、奈緒美さん……」


 そう言って、彼は私の頭頂部からつま先までを丁寧に愛撫する。


 まるで私が儚く壊れてしまうモノかのように、そっと優しく、丁寧にそれらを舐め上げて行く。


「私、ずっとルイ君と一緒にいたいわ」


 叶うわけがない望みを口にする。私は浅ましい女だ。


「僕だって出来る事なら奈緒美さんとずっと過ごしたいよ。でも、奈緒美さんには家に待っているご家族がいるでしょう」

「あんな夫、捨てても構わないのよ?」


 お願い、ルイ君、私を選んで……。


 ──ピピッピピッピピッ


 アラームの音がけたたましく私達の会話を遮る。


「時間ですね。本日のご利用もありがとうございました」


 急に事務的な口調になるのは、ルイ君が出張ホストという仕事をしている人間だからだ。


 そう、私は金でルイ君を買った身。夫が稼いだ金で男を買う。夫には無い優しさやひと時の愛を買う。私にはルイ君への愛はあるが、彼の中に愛は無い。あくまで私は客だ。俗に言う、『太客』ってやつだと思う。


「じゃ、今日のお代を……」


 代金を払い、先ほどまで愛されていたつま先にストッキングを纏う。この瞬間が一番嫌だ。


「駅まで送らせて下さいね」

「……ありがとう」


 ビジネスの間柄だけど、こういった気遣いに私は勘違いをしてしまいそうになる。


 電車に乗って帰れば、もその家に帰って来るというのに。

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