死んでしまった僕の幼馴染が、異世界転生し役目を終えた勇者として戻ってきた。
書峰颯@『いとこ×なじみ』配信開始!
第1話
桜咲くこの季節が、僕は大好きだった。新しい命の芽吹きとか、温かくなって気持ちいいとか、そういうのもあるけど、もっと単純な部分に僕の喜びが存在する。幼い頃から時を共に過ごした彼女とは、いつしか妹みたいになり、気付けば姉の様な存在になり。そして、とても大切な人へと昇華しようとしていた。
「
僕の名前を呼ぶ声を聞くのが好きだった、毎朝迎えに来てくれて、たまには僕が迎えに行く事もあったりして。動物が好きだけど、虫が嫌いな君。春がとても似合う名前をした君と、僕はずっと一緒に成長していくのだと、信じて疑わなかった。
「
僕が呼ぶと、君はいつでも笑顔で振り返ってくれたね。喧嘩をした事もあった、約束した時間に僕が遅れる事もあったし、初デートの時は君が遅刻してきたよね。その時は理由を教えてくれなかったけど、君が居なくなってから、僕は君のお母さんからその理由を耳にしたんだ。
洋服が決められなくて、洋服が決まっても髪型が決まらなくて。僕とのデートなんて、毎日顔を合わせている僕とのデートなんて、そんなに大切に想ってくれてるなんて思わなかったのに。
結局、僕との待ち合わせに一時間も遅刻した君の事を、僕は少しだけ怒ってしまった。今となってはなんと器量の小さい男なんだろうと思う。謝ることが出来るのならば、謝りたい。けれど、もうこの謝罪が、君に届くことはない。
あの優しい声も、毎日僕に向けたあの笑顔も、全部終わってしまった。
高校一年生を迎えようとしていた、あの春の季節に。
僕の目の前で穂波は、
昨年の交通事故による死亡者の件数は、全部で二千六百三十六件だそうだ。ほとんどがニュースにもならない、人が死んでいるのに。語るには軽い、でも、とても重い数字だ。
どんなに技術が進歩しても扱うのが人間なのだから、この数字は絶対にゼロになる事はないのであろう。ゼロになるとしたら、その時は人間がいなくなる時だ。どんなに優れた人も、どんなに大事な人も、いつかは命を失ってしまう。
終わりの時が来るんだ。
死ぬのは順番だ、なんて大人は良く言うけど、だったらその順番をきっちりと守って欲しい。守る世界にして欲しい。穂波はまだ十五歳だった、これから僕と一緒に高校に通って、沢山の経験と楽しい生活を送って、段々と大人になるはずだったのに。
もしかしたら、僕とは別れる未来だってあったのかもしれない。僕と穂波が別れる未来があって、最終的にはお互い違う人と一緒になる未来もあったかもしれない。けれども穂波の時間は十五歳で止まってしまった。その未来は、絶対に見る事の出来ない未来だ。
穂波の未来は、僕との幸せの日々しかないままに、終わりを迎えてしまった。
だから、僕も穂波との幸せだけを考えて、今を生きている。
一年が経過して、二年が経過しても、今もまだ、僕は穂波を待ち続けている。
二人でデートの約束をした待ち合わせの場所のひまわりを見る度に、季節を感じていて。
春が大好きだった、そして、大嫌いになった。
穂波と過ごせない人生に、価値なんてない。
終わりなんだ、なのに今もこうしてダラダラと生きてしまっているのは、何故なんだろう。
歩道橋の上から見ても、下から覗いても、君はいないのに。
君の未来が僕との幸せしかないままに終わったのに対して、僕の未来は君がいないままにしか終われないなんて、なんて不公平なんだ。僕の未来も、君との幸せしかないままに終わってしまえば良かったのに。
終われない、君との幸せがないままに終わる事なんてできない。
生きているのに死んでいる、今の僕に、僕の未来に価値なんてないのに。
「零音君」
それは、高校三年生の春の事だった。定刻通りに動く電車の様に、機械人形みたいに学校へと向かっていた僕に声を掛ける女性の姿。はたするとそれは物語に出て来る妖精の姿でもあり、女神の姿でもあり。とにかく、現実味を感じさせない雰囲気を周囲に撒き散らす存在だった。
白銀の鎧に、腰には剣までぶら下げていて。髪はプラチナの様に輝いて、その瞳は紺碧の海の様に澄んでいた。近づいてくるその人を見て、何故だか懐かしさを感じた。理由は分からないけど、懐かしい、そう心が叫んでたんだ。
重苦しいし暑苦しそうな鎧姿のまま僕に近付くその人は、もう一度僕の名を呼んだ。
通学途中だったから、僕以外にも沢山の人がいるのに。
線路沿い、先がとがった石柱の様な塀と、有刺鉄線、違法駐輪が沢山ある駅の近くで、鎧姿の彼女は僕の名を呼んだんだ。
「零音君」
声色は違う、背丈も違う、髪の色も何もかも違うのに。
僕は彼女のニュアンスだけで、全てを理解してしまった。
けれど、理性が踏みとどまらせる。
彼女は僕の目の前で死んだんだ、僕がデートの約束をしたせいで、初デートで怒ったりなんかしたせいで、時間を守る何ていう下らない理由のせいで死んでしまったのに。
だから、いるはずがない、葬式まで出たんだぞ? 僕がどんな気持ちで君の葬式に出たと思っているんだ。身内でもないのに斎場まで一緒に行き、どんな気持ちで君の軽石の様な骨を骨壺に入れたと思ってるんだ。泣き崩れて、周囲に支えられても立つ事も出来なかったんだぞ。
「なのに、なんで……穂波」
抱きしめた彼女の背丈は、僕と同じ位だった。以前の穂波なら頭一個分小さかったはずなのに、今の彼女は、歩めなかったはずの未来を少しだけ歩いてきた様な彼女は、本来なら成長したであろう背丈にまで成長していて。
一度抱擁して分かった、仕草や温かさ、その全てが穂波だった。
鎧の部分は固かったけど、他の部分はとても柔らかい。
あり得ない、もし昔の穂波が今の僕を見たら、知らない女の人と抱き合っている僕を見たら、何て言うのだろうか?
でも、その未来はきっと存在しない。
だって、目の前に、穂波がいるのだから。
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