第7話
「ミアさん、大丈夫です。無責任に聞こえるかもしれませんが、逆に言えば、解毒が叶えばお嬢様は助かるということで――」
上滑りのする慰めなど耳に入らない様子で、彼女はエミリア嬢を凝視している。きっと心配でならないのだろう。
長く感じる沈黙を経て、ぎこちなく彼女の顔が上がる。
「申し訳ございません。取り乱してしまいました」
気丈な謝罪に、「あたりまえのことです」とアルドリックは心情を慮った。依然としてミアの顔色は青白い。
「我々こそ配慮が足らず申し訳ありません。ですが、お嬢様のために力を尽くしていることは事実です。それに、彼は一級魔術師なので。間違いなく解毒は叶います」
「簡単に約束をするな。間違いなくなどという保証はできかねる。まぁ、成分が判明すれば、成功の確率が上がることは事実だが」
「ちょっと!」
間違いなくという表現が迂闊だったことは謝るが、言い方というものがあるだろう。アルドリックはエリアスを部屋の隅に引っ張った。
今後も行動を共にするのであれば、頼むので言動を改めてほしい。
「なんだ?」
「なんだ、じゃないよ。あのねぇ、きみ。間違っていなかったら、なにを言ってもいいわけじゃないことは、さすがにわかるだろう?」
子どもじゃないんだから、との非難は胸に留めたものの、そういうことばかり正確に伝わったらしい。青い瞳に不満を乗せたエリアスが、ぽつりと呟く。
「合理的な方法を取ったつもりだったのだが」
「なにが合理的なんだよ……」
意味がわからないし、彼女が気の毒なだけではないか。脱力したアルドリックを見下ろし、まぁ、いい、とエリアスが口を曲げる。
まぁ、いい、は間違いなく自分の台詞だったが、アルドリックは大きな子どもに問い返した。
「なに?」
「帰るぞ」
「ええ、ちょっと、帰るって――。ちょっと! 魔術師殿!」
叱られてバツが悪くなったから帰るとか、どこの子どもだよ、なんて。この場で言えるわけもない。
呆然とするミアに「すみません」と頭を下げたアルドリックは、言葉のとおりドアノブを回したエリアスを慌てて追いかけた。
「ちょっと、ちょっと本当に待って! 魔術師殿!」
報告も挨拶もせずに帰ることもまた、できるはずがないのである。
どうにか廊下で彼を引き留め、ついでにと通りがかったメイドにミアのことを頼み――フォロー不足が気になったのだ――、仏頂面のエリアスを執事のもとに連れて行き。
報告と挨拶を済ませて屋敷を出るころには、アルドリックはほとほと疲れ切っていた。
頼むので、本当にもう少しでいいから、まともな言動を取ってほしい。
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