第2話
街道を歩いていく勇者一行は不思議なことに魔物にほとんど遭遇しなかった。魔王城に徐々に近づいているというのに。やがてクインの街に到着する。魔王城が間近に見える。スーフェンの話によると小さな山を越えたところに魔王城はあるらしい。
僕らはクインの街に到着し、最後の旅支度をしていた。そんな僕らにリクラインさんが失踪したという報が入ってきた。スーフェン、ハインさんと僕は街中を捜したがリクラインさんは見つからなかった。オルフェウスはというと宿屋にずっと籠もっていたらしい。子供の頃から一緒にいたリクラインさんが失踪したんだから仕方ないとは思うが。
僕らはリクラインさんの捜索を打ち切って魔王城に向かうことになった。スーフェンによるともともと三人で向かうはずだったのだから人数的にはなにも問題ないというが、そういう問題なのだろうか。
クインの街から魔王城に向かうには小さな山を越えなければいけないのであるが、この山には道がない。もともとここには山はなかったのであるが魔王城が出現した際にこの山も一緒に出現したらしい。人々の話では魔王城もこの山も魔界のものではないかという噂だ。この山には道がないのに人々や魔物はどうやって魔王城とこちらを行き来しているのかというとこの山には洞窟があり、そこを通るそうだ。
僕らはその山に入り洞窟を探す。確かに魔界の山と言われれば否定しようのない何かこの世のものでない雰囲気がある。しばらく歩いていくと無事洞窟の入口を見つけた。なぜだろう。魔王城に続いている道だから人に出会わないのは分かる。ただ、魔物にもまったく遭遇しないのだ。僕は言いようのない不安を覚えつつもハインさんの後ろをついていく。
僕らの隊列はスーフェンが先頭で、その後ろにオルフェウス。オルフェウスは光魔法を使い暗い道を照らしていく。その少し後にハインさん、その後ろに僕という隊列だ。そもそも魔物と出会わないのだからどんな隊列でも問題ないのだが。
洞窟も半分くらい行っているはずなのにやはり魔物にまったく遭遇しない。いくらなんでもおかしい。この洞窟の道はひたすら登って行くだけの細い道が続いていく。一歩間違えれば奈落の底だ。僕らは休憩を取りながら一歩一歩慎重に歩いていった。
あれ、何かおかしい。
オルフェウスが灯す光が怪しく暗い光に変わり始めていく。
そして、その時がきた。
ハインさんが持つ流星の涙が暴走しはじめ、放射線状に光を放っていく。ハインさんが道から足を外してしまい、咄嗟に手を差し伸ばした僕もそのまま一緒に奈落の底に落ちていく。
そして、僕はこの世界から消えていった。
【オルフェウス視点】
フレイアは絶対怪しい。
この街に入ってからもハインとコソコソ歩きまわっている。
老婆と何か親密に話す二人。
怪しい。
魔王軍の密偵かも。
私は老婆の後をつけていく。街はずれにきた時に好機とみて話しかけた。
「ちょっと、お婆さん」
老婆はニヤリと笑い、私に言った。
「ずっとお前を待っていたんじゃ」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭は真っ白になった。
気付いた時には私の足元に老婆の死体が転がっていた。私は急いで宿屋に帰っていった。
私たちは魔王城の手前のクインの街に来ている。先程、リクラインから夜に二人きりで話したいことがあると申し出があった。まさかリクラインにあの老婆のことがバレたのではないかとヒヤヒヤしている。
その夜、皆が寝静まった頃にリクラインは私の部屋にやって来た。
「王女、最近はご気分がよろしくないようですが、一度浄化魔法で邪気を浄化させていただきたい」
『やめろ。やめろ』
心の奥底から声が響いていく。
「リクライン、気にし過ぎですわ。私ももう大人ですから自分のことは自分でします。過保護すぎますわよ」
「いや、それでも今の王女はおかしいです。是非、浄化魔法を」
『ころせ。ころせ』
ふたたび心の奥底から声が響いていき、私の意識は消えていった。
気付いた時には足元にリクラインの死体が転がっていた。
いよいよ魔王城へと続く洞窟に入っていく。もう、後戻りはできない。私の前には愛するスーフェン様、少し後ろをハインとフレイア。スーフェン様と二人きりになれば、どうとでもなる。
二人きりになれば。
二人きりになれば。
洞窟の道も間もなく中間まできている。こんなところで足を踏み外したら奈落の底ね。
『ころせ。ころせ』
心の奥底から声が響きわたる。
私の魔法の光が怪しく暗い光となってゆく。
『流星の涙は闇魔法に反応する。闇魔法を。闇魔法を』
私は使えるはずのない闇魔法をハインの持つ流星の涙に対してかける。闇魔法に反応した流星の涙は放射線状の光を放った。それに動揺したハイン、ハインを助けようとしたフレイアは足を踏み外し奈落の底へと落ちていった。
「フフフ、やっぱり若い身体はいいねえ。まさか自分が殺した老婆に肉体を乗っ取られるとはねえ」
オルフェウスがそう言うと、スーフェンは抜刀し身構える。が、なぜか身体がふらついている。
「ああ、無理しないほうがいいよ。あの闇魔法の光を浴びて立っているのがやっとだろ」
スーフェンは言葉すら発することもできない。そのスーフェンの剣の切っ先にオルフェウスは自らの首をもっていく。スーフェンはその剣を下ろして足から崩れていった。
「面白いねえ。自分の愛した男を甚振るっていうのも」
その日を境にその洞窟には魔女が棲むという噂が流れていく。
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