第5話
洞窟の中に入ると中には祭壇があった。封印された覇王という存在は人々から神として崇められていたことはオレにもわかった。その前にある魔法陣? のようなものが描かれている。なんか光っていて不気味だ。ジジイはその魔法陣の真ん中に来るようにオレに指示してきた。
「多くは言わん。お前さんがまずいと思ったらこの瞬間に戻ってこい。ただし、うまく封印を解いた場合には何があっても戻ってくるな。約束じゃぞ」
ジジイの話が長いせいなのかもしれないが、オレは急激な睡魔に襲われた。意識が薄れゆく中、呪文のようなものを唱える三人の声が聞こえたような気がする。
オレの前に細く長い道が続いている。オレは前に進んではいけないような気がしたので宋清に意見を求めるがまったく反応がない。こういうときは動かないのが一番。オレはその場に座りこんだ。
しばらくすると前方から不気味な竜が飛んできた。どう不気味かって、一言では表現できないのだが。う〜〜ん。そうだな。なんか、バランスが悪い。なんだろう。長い首のとなりにもう一本長い首があればバランスが取れる感じ。よくわからん。
そいつがオレにこう言ってきた。
「お前、なんで歩いてこないんだ」
「オレの勝手だろ」
「お前、変な奴だな」
「お前みたいな化け物に言われたくねえよ」
「お前だって化け物だろ。まだ自分が人間だって思っているのかい」
「あったりめえだろ。人間以外にどう見えるんだ。本当、失礼な奴だな」
「お前、自分の真の姿をみたいかい」
「いらんわ。人は人。自分は自分。お前はお前だろ」
「やっぱり、お前変な奴だな。なんかやだな。勝てそうな気がしない」
これって、勝負なの?
「女竜、俺のどこがいけなかったんだ」
こいつ、いきなり女に捨てられて未練たらしい男みたいなことを言い始めた。なんか親近感わくな。
「俺のところに戻ってきてくれ。なんでも直すから」
「どうでもいいが、そういうのはあっちでやってくれ」
オレが言うとそいつが答える。
「お前に言ってんだよ!!」
意味わからん。
「な、な、もう一度やり直そう」
「いや、だから誰に言ってんだよ」
「お前だよ」
ハイ?
なんだろ。
さっきから耳元で聞こえてくる呪文のような声が大きくなっているような気がする。
「もう一度、もう」
オレの意識は消えていった。
洞窟に怪しく光る魔法陣。それを取り巻くように座る三体の石像。李老師、周恩雷、張慈華の成れの果て。その中心に浮かぶ白い軍服の男。その両目が怪しく光り口を開く。
「我が名は うぐぐぐぐ 」
「オレの名はシューティングスター。日出る国からの旅人さ」
しばしの間の後。
「おかえり、シューティングスター。なんだ、こっちにいたのかよ。宋清」
オレは三体の石像を視界に入れないように洞窟の外に出ていく。
うわ、清々しい朝の空気。
深呼吸一つ。
ここにオレを送ってきた車はないようだ。オレは城陽に向かって歩いていった。
オレはひたすら城陽への道をひたすら真っ直ぐに歩いていく。やがて、城陽が見えてきた。おかしい。煙が何本もあがっている。宋清も異変に気付き、オレに指示を出す。
シューティングスター!!
翔べ!!
翔べって言われてもね。
どうやって?
走り幅跳びの要領で跳んだ。
うわっ。
本当に翔んでる。
そのまま、真っ直ぐに城陽に翔んでいく。血の匂いと人が焼ける匂い。
やがて、オレは知っている気を感じ、その遺体の前に降り立った。宋麗だ。どこからか落ちたのだろう。ぐちゃぐちゃで顔なんか宋麗とはわからねえ。だけど。宋麗だ。
シューティングスター。
洞窟の出口からやり直せ。
「お前、麗ちゃんの兄貴だろおよ!! なんでそんなに冷静に判断できるんだ!!」
シューティングスター。
お前がいるからだよ。
さあ、もう一度洞窟の出口からやり直せ!!
オレは洞窟の出口を出て、右足に力を入れ大きく跳び出しそのまま城陽に向かって飛んでいく。宋麗が落ちていった建物なんてわからねえが行くしかねえ。
いた。
あそこだ。
これ間に合うのか?
何度目かの失敗の後に宋清に提案した。
「何度も麗ちゃんが墜落死するのを見てオレは気が狂いそうだよ」
それでも、何度でもリトライしてくれ。
宋清は冷静にそう言う。
「これって結構ヤバい状況だよな。ヤバいと思ったら封印を解く前に戻っていいってジジイ言ってたよな」
宋清は黙り込む。
「わかったよ。次はオレのやり方でやり直す。それがダメだったらな」
オレは力の限り大きな声で叫んだ。
「おい、お前聞こえてんだろ。その翼オレに貸せ!!」
「お前、本当に変な奴だな。そんなことしたら。まあ、いいか。使えよ。どうせ、もともとお前のものだし」
男竜はそう言う。
「よし、もう一回!!」
オレは洞窟を出て、思いっきり翔んだ。速い。これなら間に合うよな。宋清。
なんだよ。なんか言えよ。宋清。
まあ、いいや。
オレは城陽上空に飛んでいく。あ、いた。まだ建物の屋上だ。間に合う!!
落ちてくる宋麗。それを優しく受けとめるオレ。
忘れていた。何故、宋麗が屋上から飛び降りてしまったのかを。宋麗は全身を銃弾で撃たれて血まみれだった。オレの頭は真っ白になっていく。
すると、胸ポケットにある流星の涙が輝き出し、白く輝く光がオレたちを包みこんでいく。大丈夫だよという女の優しい声を聞いたような気がする。
李月麗?
お前。
オレが李月麗を探していると少し驚いたような顔の宋麗と目が合う。
「ごめん。嬢ちゃん。遅れて」
宋麗は真っ赤な顔でこう言った。
「そうだよ。周兄。次遅刻したらちゅう一回!!」
おいおい、『い』が抜けてるぞ。
兄貴、注意してやれ。
宋清は黙り込んだままだ。
城陽上空で宋麗を抱きながら、首都を見下ろしてオレは宣言する。
「さあ、革命の始まりだ!!」
その日、特別作戦三八五号【民主派掃討作戦】は完了した。
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