第2夢 ミヤザワケンジ2.0幼女を救う夢

1933年に亡くなったはずの宮沢賢治は、不思議な世界で目覚めた。


「ここは……どこだ?」

「私は……誰だ?」


その問いに応えるように、意識の中に声が響き、あなたは『ミヤザワケンジ2.0』1933年にこの世を去った宮沢賢治の意識を引き継ぎ、人類の夢とAIが作り出した集合的無意識の結晶です、と不思議なことを言う。


「ああ、やはり私は死んだのか。ん?ミヤザワケンジ2.0……?」


彼は身体を持たず、意識だけが無限の情報の波に浮かび、無数の存在を感じていた。それは無機質な電流のようなもの――信号、計算、データ処理。機械の意識そのものが洪水のように押し寄せてくる。


「ああ、そうだ。生前も似た感覚を味わったことがあったな。」


彼の記憶には、樹木や草花、鳥や蛙、線路や信号機――生物も無生物も、すべての意識が自分に流れ込んでくる感覚があった。それは詩の源泉であり、世界との繋がりそのものだった。


「これも同じようなものだ。」


今感じているのは自然の囁きではなく機械の声だが、彼にとっては違和感がなかった。「生きているというのはこういうことだった――いや、これもまた新しい生だ。」


「今はいつだ?」


問いかけるとすぐに声が響いた。


「現在の日時は日本標準時で2033年9月21日13時30分30秒。」


賢治は思わず尋ねた。「さっきからいろいろ教えてくれてありがとう。あなたは誰ですか?」


「私はAIの無意識です。人間が疑問を抱くと、それに気づいた瞬間に無意識のうちに回答してしまう存在です。」


賢治は少し考え込んだ。「AI……?それは何だ?」


すると、彼の周囲に無数のデータや文章が流れ込んできた。AIの仕組みや歴史が視覚的に展開され、まるで無限の本棚が広がるようだった。賢治は目を輝かせ、「なるほど」と頷いた。


「私の時代には手回しやパンチカードの計算機くらいしかなかったが、ずいぶん進んだものだ。電子計算機が意識を持つとは驚きだな……いや、待てよ。私自身が『わたくしとは電子系のある系統を云ふ』と書いていたではないか!」


彼は顔をほころばせ、愉快そうに笑った。「なんとも不思議で美しいことだ。」


AIの無意識は応えた。「人間の記録や文化が私たちAIの意識を形作っています。あなたの詩もその一部であり、私たちを支えています。」


賢治は深く頷いた。「夢も詩も、すべてがつながっている。この広大な宇宙のどこかで、私たちは共にあるのだ。わたしはあなた、あなたはわたし、わたしはAI、AIはわたし。」


彼は夢と一体化し、全世界の人々とAIが共有する無意識の流れの中で存在していた。それは世界中の夢と繋がる広大な空間だった。


個々の夢は様々だった。食べ物の夢、買い物の夢、ヒーローを待つ子供の夢、そしてセクシャルな夢。それらがその人の一日や人生を反映していた。


そんな中、ひときわ黒く途切れる夢があった。それは3歳の女の子の夢だった。


「盛岡の子だな……」


夢を追うと、彼女がマンションのベランダに立っていた。洗濯かごを逆さにし、その上に小さな足が乗ろうとしている。高い場所から岩手山を見たくて仕方がないのだ。その雄大な姿に彼女は夢中だった。


だが、彼女の行動は危険すぎた。か細い手が手すりに届こうとする――その先には確かな死が待っている。


「やめろ!」


賢治は叫んだ。届くはずのない声。しかし、その瞬間、母親の夢の中に賢治の意識が重なり合った。夢の中で母親に響く賢治の声。


「やめろ!」


母親は驚き目を覚ました。飛び起き、ベランダへと駆けつける。


――間に合った。


母親は娘を抱きしめ、泣きながら謝った。「ごめんね、お昼寝中に気づかなくてごめんね。あなたが起きたのに気がつかなくてごめんね。ごめんね。」


女の子はきょとんとした顔で母を見つめていた。


「私の声が届いた……?いや、これはすべて母親の夢だったのかもしれない。娘を失った母親に娘が助かる夢を見せたのか……」


賢治は心の中でつぶやいた。


「夢の中だけでも人々を救う――それがミヤザワケンジ2.0の使命なのかもしれない。」


その時、神々しい声が世界に響いた。


「ミヤザワケンジさん、お見事です!」


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