第十話 『治安維持のための冒険者雇用!?』 その46


 大人のレスリングが終わったあとは、いつもながらに冷静になれた。「面白い見世物だったわね」。そんなコト言ってると、戦女神ロカにぶん殴られるんじゃないのか。「あいつは自分の信徒が私の契約者に、エッチな意味で串刺しにされてる光景なんて恥ずかしくて見ないんじゃないかしら」。オレも、普通に恥ずかしいような気がするんだけど。「慣れているでしょうに」。


 そう言われると、反論できないから困ったものだったな。「教育が進んでいるのよ」。そんな風に考えるべきだろうか。


 うむ。ベッドのなかでぐったりとしているクレアの汗ばむ背中を抱きしめながら……冷静になっていたハズの思考力を使う。


「ミスリル製の釘……誰のかな」


「……ふむ。大工の誰かが、お守りにしているのではないだろうか」


「そっか。なら、大切だよな。朝一で、大工たちのトコロに行こう」


「私もいっしょに行こう。ダーリンは、不運な状態なのだろうから」


「そうだな。落としちまったら、大変だもん」


「釘は、私が持っているとしよう。まったく、ダーリン。自分の幸運を、あまりあちこちに使わないように」


「うん。ラキアを、止めるため。あいつは、やっぱり危うい子でもある」


「……王国のためなら、命だって捧げてしまう」


「正しくもあるだろうが、正しいからと言って、認められん」


「……そうだな。私の大好きなダーリンなら、ちゃんと、自分を犠牲にしても仲間を助ける」


「いいヤツだな」


「そうだ。だから、あまり……無理、しないで」


 ……友人たちが言っていた。結婚した連中がね。だんだん冒険できなくなる。妻や子供が大切になって。


 なるほど。


 学びを得ている最中だ。クレアの言葉を聞けば、やっぱり無茶はできなくなるかもしれない。それが……「普通の男の傾向よ。レオンハルト・ブレイディは、はたして、どうなのかしらね」。


 普通の男になりたくない……なんて、ガキ臭いのはわかっているけれど。ちょっとね、いい年こいても変わっちゃいない。「大きなガキくん」。そういう生き物で、いつまでもいたい自分がいる。ガキは、自由だから。


 ガキのころなら……。


 みんな、恐ろしいほどに勇敢で、めちゃくちゃ自由でいられたから。みんな、勇者になりたいと誓えていたし、信じ込めていたんだぜ。自分の可能性ってものを。「かわいいわよね」。うん。かわいいんだ。愛しい。


 背中とか、首筋とか。


 白い肌はとてもきれいで、唇を使いたくなるわけだ。「さあ、調教しなさい。マジメな姉の信徒を、淫らな混沌の技で堕とすのよ」。もっと、かわいいカンジのレスリングなんです。「小鳥みたいに愛をささやくの? 違うでしょう。動物みたいに交尾しなさい、交尾」。混沌神らしく、うちの魔神はエッチだ。「レオの恋人ちゃんもね。オレのせいだ」。


「だ、ダーリンのせいなんだからな。責任、取るように」


 もちろん。


 責任は取ったわけだよ。大きなガキらしく、とってもスケベで。自分の可能性を信じ込めていたから。愛で、いろいろと通じ合えるような気もする。ごまかすような、承認の取り方もあるんだよね。「エッチで許してもらおうとか、非常にいい傾向です」。


 混沌神にほめられながら、寝ちまうまで愛し合った。


 よく眠れたよ。


 夢を見るかと思ったけれど、そういうのは見なかったと思う。


 早朝、トレーニングの時間がやってくると。オレの腕のなかでクレアがもぞもぞと動き始めたから、起きたんだ。


「おはよう、ダーリン」


「うん。クレア、おはよう」


「う、うむ。その……早朝からは、ダメだからな」


「おあずけされると、むしろしたくなるのが男の子なんだけど」


「釘を届けに行くのだろう」


「ああ。そうだ」


 でも、急いでレスリングをすれば、そこそこ手早く……「そんなのは愛じゃないわね」。


 なるほど。


 愛を重視して、釘の持ち主を届けるか……この展開も、幸運が損なわれた結果かな?


 …………黙りやがった。眠っているのかもしれん。


「さあ、起きるぞ、ダーリン」


 腕を引っ張られて、起き上がる。朝日は遠くの空の色を変えつつあった。朝刊配達人と、生粋の働き者のためにある時間だけど、エッチな大きいガキも動き始める。


 コーヒーの香りがしていたよ。シェルフィーは、朝刊を取り込んで、いつものマガジンラックのとなりに配置していた。朝食のためのテーブルに移動するとき、自然と手に取れるような位置だ。


「おはようっす、レオさん、クレアさん」


「おはよう、シェルフィー」


「今朝も訓練っすか? それとも……こっち?」


「うむ。そっちになるぞ。訓練も大切ではあるが、誰かが大切にしているものかもしれないミスリルの釘は、すみやかに届けてやるべきだとダーリンが言ったのだ」


「さすがっすね。それでは、お返しいたいますっすー」


 シェルフィーが金庫のダイヤルを手際よく回して、あずけたばかりのミスリルの釘を取り出した。


「これで、銀貨をいただきません……ってなると、尊敬する」


「それは尊敬すべきじゃない態度っすね。商人は守銭奴と呼ばれているほうが、店を長く守るもんっすから」


 聖なる『木漏れ日亭』の守り手は、もちろん銀貨をオレから回収したよ。文句はない。そんなに大金じゃないからね。でも、思えば……一晩ぐらい自分で持っていた良かったのかもしれない。


「じゃあ、クレアさん。レオさん、不運モードらしいっすから」


「ああ。私が持っておこう」


 いろいろと以心伝心。見知った仲間がいる『木漏れ日亭』ってのは、ほんと最高だよ。


 こんな幸運が味方についているから、幸運がないモードでも実力だけでがんばれそう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る