第十話 『治安維持のための冒険者雇用!?』 その17


 晩飯をいただいた後で。


 院長室に招かれたよ。


「お皿洗いも手伝うつもりだったのにな」


「当番制だ。レオンハルトも組み込んでやろうか?」


「定期的に食べにくるのもいいな。食費と、食材は持ち込むぞ」


「ブレイディ家からの援助もいただいている」


「マジか。ドミニクと、親父か……」


「善良な方々だ。お前と同じく、社会的弱者を見捨てられないらしい」


「気持ち良くパンを食って欲しいとは思ってる。ふたりとも、社会貢献したいと願っているからな」


 がめついのは、お袋ぐらいだ。「あさましい女よね!」。あさましいとか言うなよ。ちょっと傷ついちゃうじゃないか。


「結論を聞きたいでござる。警察署長の任、受けてくれるでござるか?」


「……うむ。いそがしいのは、見ての通りだが。治安の悪化は、この孤児院の安全にも直結するだろうからな」


「そうでござるな。孤児たちへの暴力も、増えるだろう」


 シオンの目が、まるで獣のように鋭くなった。思わず、備えてしまいそうになるほど。当然だな。「獣は、自分の家族のためにこそ、最も残酷になるものね」。偉大な習性を、シオンは『盗賊王』から受け継いだらしい。


「やり遂げよう。また、学ばなければならんコトが、山ほど増えるのは厄介ではあるが」


「オレも協力する。ギルドの全員でだ!」


「当然だ。お前はこの人事に責任を取るべきだぞ」


「おう」


「で。具体的には、どういうプランなんだ?」


「王都の大通りあたりに、警察署を建てるでござるよ。そこが、警察組織の中枢」


「このスラムはどうする? スラムこそ、治安が悪いんだぞ?」


「詰め所を配置するってのが、王道だろ。前線基地、哨戒拠点……」


「冒険者流の『偵察技術』とその知識の応用をするわけですね」


「ああ。警官に雇いたいのは、冒険者だからな。冒険者流の知識を使えば、適応しやすいだろう」


「再就職支援ギルドは、警察まで手に入れるというわけか」


「語弊がある言い方だな。オレは権力をそこまで欲しいわけじゃないぞ」


「……いっそのコト、持ってくれてかまわんとも思うがな」


「……孤児たちを、守りやすくなるからか?」


「ああ。私も野心的であるつもりはないが、目的はある。孤児たち。うちの子供たちを守り抜きたい。不利な人生を送らないですむように、権力で守ってやりたくもある」


「英雄の娘だ。義賊を継がないなら、警察で法律に貢献してくれでござる」


「力を独り占めするなと?」


「王国全体を守ってくれると助かるでござる。それは、結果として、ここの子供たちも守る」


「……密偵は、難民孤児院に対して、どんな判断をしているんだ?」


「答える義務はないでござる」


「義理ぐらいはあるだろ」


「あったであろうか……?」


「晩飯をごちそうしてやった」


 ニヤリと笑うシオンは、駆け引き上手だな。ラキアはマジメだ。自分への施しを無視できるような子じゃない。「盗賊職らしく、観察眼が鋭いわ」。


 ラキアはもちろん、無表情。貌神リコドのせいで、究極のポーカーフェイスの呪いに囚われているから。だが、それでも。


「たしかに」


「納得してくれたなら、教えてくれ。私の敵か、そうではないのか」


「……密偵は、いついかなるときでも、国王陛下の手駒でござる。王家第一。もしも、難民孤児院への肩入れが、王家の威信を損なうような状況になれば、切り捨てる」


「ハッキリ言いやがる」


「そういう態度を求めているでござろう?」


「ああ。茶を濁されても、何にもならん」


「逆に。そうでもなければ、私たちは難民孤児院を攻撃したりはしないでござる」


「陛下の意志に沿ってか」


「うむ。陛下は調和を望まれておられる。混沌とした状況でも、成り立つ平和を」


「そのなかには、うちの子たちも含むと」


「当然でござる」


「……なら、文句はない。レオンハルト、私は警察作りに協力するぞ」


「いい警察を作ろうぜ。有能で、やさしく、愛される組織をな!」


「怖がられたほうがいいんじゃないか?」


「有能な法律の執行者なら、自動的にそこそこ怖がられるもんだろ」


「密偵のようにか」


「褒められたでござる」


「とりあえず、また出世しちまったな、シオン」


「……政争に巻き込まれてはたまらん。だが、お前の言うとおり、多少の権力は必要な時代になるのかもしれん」


「そもそも、お前らは『英雄』の一翼を担っているでござる。王国の機能を、きちんと背負うべき立場だ」


「そこまで大物かよ?」


「自覚がないのは、ある意味でリスクでござる。陛下や密偵、新聞社のオーナーと気軽に話しかけられるような男は、権力の中枢にほど近い。しかも、爵位もあるギルド長だ」


「……そう言われると、ちょっとはスゴイ男に思える。勇者になるのに、挫折しちまった負け犬のわりにな」


「働けでござる。使える駒だ。陛下の望まれる、実現しがたい理想のためにこそ、お前は命を使うといい」




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