第十話 『治安維持のための冒険者雇用!?』 その2


「よう。久しぶりだな」


 王城の地下牢で、アイーダと会った。彼女はあいかわらず軍人のように凛としていて、自分が間違っているなんて思っちゃいない様子だ。「つまり、反省なんてしちゃいないのよね、このテロリスト女ってば」。嬉しそうに言っているね。


「何の用だ。レオンハルト・ブレイディ。ああ、自由騎士殿」


「男爵にもなったんだぜ」


「下級貴族への就任、おめでとう。これでお前も、国を守る義務に憑りつかれるぞ」


「そいつはかまわないよ」


「……冒険者風情が」


「冒険者は大儀を持って戦っていた。魔王戦争時代から、今も変わらない」


「怠惰で腐っていただろうに」


「その通り。オレを私設軍に誘わなかったのは、君の失敗かもしれんぞ」


「魔神憑きには、警戒したいからな」


「縛神ナナキに対処されちまうからかい?」


「そうだ」


「手の内を素直に語るんだね。ちょっとは、この地下牢暮らしがこたえているのか」


「そうだと思えるなら、お前は幸せ者だ。私は、もっとヒドイ目に遭ったからな」


「トルーバで?」


「女の個人情報を探るとは、男爵殿は悪趣味のようだ」


「しょうがないだろ。君を勧誘するためにも、多少は、事情を知っておきたい」


「勧誘だと?」


「そうだよ。ベクトラ伯爵に逆らった君に対して、チーム王さま側への誘いをしにきたんだ。妹さんや、密偵からは誘われていないのかい?」


「……バカな」


「何が?」


「誘われるわけがないだろう。私は、王子殿下に刃を向けたんだぞ」


「ターゲットじゃなかった」


「……伯爵閣下の目を覚まさせたかっただけ」


「隣国を攻めて、領土を奪いたいってか」


「安全保障のためには、やむを得ない。むしろ、貧しく、怠惰で、不勉強で邪悪なクズどもが支配するトルーバや、魔神を信仰する狂信者どのファーガルなど、ルクレートが支配してやったほうが、民草たちは幸せなのだ」


「うむ。強烈なタカ派だね」


 ベクトラ伯爵たちよりも、一段階、深刻さがあるというか……「ルクレート王国の軍事的アドバンテージを、有効活用したがっているのよ。それに、ファーガルやトルーバよりも、この王国のほうが、民衆は元気で活力があるわよね」。


「我がルクレート王国こそが、この土地に覇権を唱えるべきなのだ。そうでなければ、邪悪で欲深な近隣諸国に、食い荒らされてしまうぞ」


「それが嫌なんだな」


「お前は、どうだと言うのだ」


「オレだって戦争をするのは嫌だし、戦争に負けるのは、もっと嫌だ。だが、それよりも優先したいのは、人死にが少ないコトなんだよ。自由騎士らしいんじゃないか」


「……甘っちょろい男だ」


「妹さんによく似ている。あの子とハナシ、合うだろ」


「……あれが妹なのかは、私にだってわからない。貌神に、過去は食われてしまった」


「君たち姉妹は、魔神に代償を支払ってでも、救助してくれたルクレート王国に仕える道を選んでくれた。ルクレート王国の一員として、ありがたい献身だよ」


「事情を、知らぬだろう」


「知らないね。聞いただけだ。もっと伝えてくれたなら、より分かり合える」


「話してなど、やるものか」


「辛い思い出だろうからな。わかるよ。その種の話題は、仲良しにだって話せない。家族にも。だが、ときどき他人という距離感は便利なものじゃないか。苦労話を聞かせて、心のなかのモヤモヤを薄めるために作ってくれ」


「お前に話しても、癒されない」


「試してみろよ。何時間でも、待ってやってもいい。メシも食ったばかりだし……ああ、手土産にケーキもあるんだ。食えよ」


「施しは不用」


「ちがうよ、アイーダ。オレのために王城のシェフが作ってくれたものだ。君に施すためじゃない。オレのために、誰かががんばってくれた。それをムダにしちまうのは、辛くてね。もったいないから、食べてくれよ」


 冒険者の女子たちは、野郎の冒険者たちより詳しかった。トルーバ王国は、チョコレートケーキが愛されているらしい。クレアのチョイスで、このブラウン色の甘ったるいケーキは地下牢にやってきた。


「鎖で両手を縛られているんじゃ、食べにくいか。ほら、外してやる」


「……バカなのか?」


「冒険者ってのは、バカなのがデフォなのかもしれない。でも、ケーキを食べるための昼下がりの時間に、両手が縛られたままってのは、良くないよ」


「逃げるかもしれないのに」


「逃げないね。君がそれを企てるなら、夜だろう。昼間で、君より格上のオレや、密偵たちが包囲しているここからは逃げない。無謀な勝負はしない、慎重さと計画性が、君の戦い方のハズ」


「知ったかぶりだ」


「いいや。もっと感情的なヤツなら、あんな手の込んだ作戦を実行しない」


「……一度の戦いで、見切ったつもりになるとは」


「バカだろ。知ってるよ。君も、もしもの逃走のために必要なカロリーを、ムダにしちまうほどバカなのかな」


「……乗ってやる」


「フォークでオレを突き刺そうとするなよ。ラキアはオレの悲鳴に喜ぶ。君を姉妹だと認めたくないようでね、襲い掛かる口実を探しているんだ」


「……あの子が、妹とは限らない」


「オレへの態度は、これでもかというほど似ているよ」


 甘党なところも。


 とは、言わない。ケーキを食べているからだ。囚人への差し入れとしては、珍しい種類のものだったんじゃないだろうか。故郷の味に近いものだと、いいのだが……過酷な地下牢暮らしには、励ましぐらいいるだろ。


 ネズミとか出そうだし。女子には、つらいと思う。オレだって、きっと無理だ。牢の内側からがんがん拳で鉄格子を叩いて、出してくれとか叫びたくなると思う。こんな場所に、閉じ込めておくのは、根っからの悪人だけでいいよ。


 アイーダは、無表情を演じるわりには、よく食べた。


 栄養補給のため、という建前をおそらく彼女は気に入っているんだと思う。「プライドが高いのね。右翼と左翼とハイブリッドのタカ派らしいわ」。


「何を、笑っている」


「嬉しいのさ。想像以上に元気そうだから。君の好きな味かい?」


「……悪くない。作り手には、感謝を。ていねいな仕事をする。意地悪な料理を、この王城の料理人たちは私にも出さない」


「誇り高いんだよ。君への憎しみも、怒りも、それ以上に大きな困惑もあると思うが。料理に対して、裏切るような真似をしない。いい国だろ、君たち姉妹が命がけで守ってくれたくなるほどに。その点では、オレや、料理人たちと君には、共通点がある。みんな、この国が好きなのさ」


 その愛情を、表現する方法論が違っていたとしてもね。「相性はいいハズよ。レオだって、王城を襲撃するほどに過激だもの。直属の飼い主の手を噛もうとした経験も、共通している」。なんて物騒な男なのか。「自覚はしていたほうがいいわね」。


「さて。話してみろよ。ストレッチして、逃亡のためのコンディションを整えながらでもいいから。チャンスだろ。オレみたいなバカで若い男を油断させ、同情させる最大の方法ってのは、仲良くなるコトなんだぜ」




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