第十話 『治安維持のための冒険者雇用!?』 その1




 男爵という地位が、オレの人生にとってどれほど重要なものなのかはわからない。正直なトコロ、あんまり興味もないのだが……。


 内戦を遠ざけるための力を得るためには、利用しなくちゃならない。


 クレア同伴で、叙任式に赴いた。


 クロウ・ネーモとルクレート・トリビューンのおかげで、見物人も多くいる。「とっても利用されているわね」。売上に貢献できれば、いいんだけどね。


 王さまに右肩に剣を当てられる。


 ギャラリーに拍手と称賛をもらった。


 偉いヤツになってしまったような気がして、とても居心地が悪い。クレアによれば、オレは借りてきた猫状態だったらしい。もっと、物怖じしない性格だと思っていたんだが。


 政治的な式典というのは、ちょっと緊張しちゃうものかもしれない。


 王さまも、そんなオレの『程度』を理解しておられるのだろう。


「祝いの宴を用意した。好きに飲み食いしてくれ」


 助かった。


 こういう打ち上げみたいな雰囲気が、粉屋の息子にはちょうどいいんだ。「男爵としての振る舞いも、覚えていくように」。ムズカシイぜ。


 酒を飲み。


 肉を食った。


 パンもね。


 ああ、サケの塩漬けも出てたし、ハーブを利かせたパスタもあったような気がする。親父とお袋もきていた。ドミニクとノエルもね。


「兄さん、本当に貴族の一員になったのか」


「お前以上に、オレ自身のほうが実感はない」


「お義母さまもー、とってもお喜びですよー」


「だろうな。すごく、商業利用したがっていそうだよ」


「息子から見て、下品なほどさ」


「お袋らしい」


 領地からの税収だけで豊かに暮らせていければ、最高なのだろうけれど。そんなにいい場所じゃないどころか、リスキーな土地だ。『フィーガロ大森林』の領主なんてさ。領地の周辺で、金になりそうな土地は切り売り状態だ。


 叙任式にきてくれなかった、ベクトラ伯爵や、マクシミリアン王子さまが購入してくれた土地まである。


「あのふたりにも、来てもらいたかったのだが」


「招待状出しただけでも、十分だよ。丁寧な返事も、もらったしね」


「『多忙のため出席は不可』……でも、お祝いの品は届いたわけだ」


「高そうなワインが。愛されてるよ」


「毒殺とか、されないようにしてくれ。兄さんが死んだら、母さんはボクに男爵位を継ぐように言い出しかねない」


「新フィーガロ大森林男爵誕生か。お前なら、オレより上手に土地転がしもこなすだろう。ああ、言い方が悪かったか」


「領地経営についての名著を三冊、兄さんに贈呈してあげるよ」


「ありがとう。何かアイデアあったら、どんどんくれ。ハートリー家と相談しながら、ビジネスというもんを展開してみたい。冒険者たちにクエストをあたえられるかも」


「ギルド長としての自覚が強いのは、いいコトだ。ちょっとは、尊敬してあげられる」


「基本的にいいヤツでいたいんだ。愛されるギルド長になるための本とか、知ってる?」


「あるよ」


「……お前も、その種の本を読み漁ったのか」


「経営に参加しようとしたとき、誰もがビジネス書狂いになる。今の兄さんみたいに、どんな知識だって欲しくなるんだ。失敗したいなんて、誰も思いやしないからね」


「実感できるわ」


 オレたち若者と、親父はこの状況に及び腰だったけれど。お袋だけは熱心だった。「金に汚い女だものね」。真実を突きつけてくれるなよ、晴れの席だぜ。


「いいかしら、我が息子、レオンハルト・ブレイディ男爵。さっさと関所を作って通行料を取るのよ!」


 お袋らしい手のひら返しというか。商売人のヨメって、こうじゃないといけないのかもしれない。親父よりもフットワークは軽かった。


「関所とか、宇宙一嫌いだったろうに」


「取られるときはね。通行料を、得られる立場となっては、逆の気持ちになるわ」


 小麦粉を運搬するのが、ブレイディ家の稼業なので。通行料を取られる関所なんて、本当は心の底から憎むべきものだったのだが……「欲深い女らしいわ。あさましさがある。俗物よね」。金に目がくらんだそのすがたは、まさに俗物ではあったけど。うちの母親なんだから、ちょっといい過ぎ。


「お兄ちゃん、お、おめでとー」


 おめかししたローズに抱き着かれる。あさましい母親の言動で、疲れた魂が癒されていくのがわかったよ。世界中の甘いスイーツを、ローズマリー・ガトウのために取り寄せてやりたくなる。


 ほんと。妹はいい。見ているだけで、心が癒される存在だ。ガキのころ、両親にねだってみるのも良かったかもしれない。


「ああ、キュートだわ。ローズちゃんも、私たち『ファミリー』の一員よね! 結束を強く、みんなで金儲けの輪を広げていきましょう!」


 ああ、本当に。欲深い母親のおかげで、心休まる暇がないよな。しかし、金儲けの輪、ね。「なかなか露骨なワードよね」。


 露骨な態度を新米貴族が取れば、敵が増えちまいそうだ。これから、アイーダを勧誘しに行って、平和を広めるつもりなんだがね。「とても政治的な勧誘よ。政敵から、腹心を『寝取る』ような気持ちでいきなさいな」。


 もっと、やさしい行いのつもりだ。「懐柔策も、スパイの常とう手段。がんばってみなさい。混沌神として、たのしみよ」。


 世界を平和にするためのスパイ活動を、がんばるとしよう。



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