第九話 『傭兵ブーム到来!?』 その20/地獄直通穴の怪!?


 気づくと。三十枚の手配書を完成させていました……っ。


 小説家なんてやっていると、文章を書いたり、資料を読み漁ったりする能力が、やたらと発達はしちゃうわけです……っ。


「お、お金をもらえるレベルの仕事ですよね」


 絵までついているわけで、これだけの品質の手配書なら、ニコレッタさんにもほめてもらえるのは間違いありません。「よくできましたね」。ごほうびがほしいです。恋人がいる美人事務員さんに、甘やかしてもらえたら……ボクは、純文学的背徳を堪能できて、とっても笑顔になれそうです!


「ふむふむ。そ、それはおかしいね」


「……ッ」


 しょ、小説家という、いや、アーティスト全般の特徴なのでしょうか。『おかしい』と言われる機会が増えると、その単語を耳にするたびに、ボクの心は傷ついていたんですよ。


 おかしい。おかしい。ロンドリはおかしい。


「う、うう。ボクだって、生きているのに。み、みんなと同じ赤い血が通っているんだあああ!!」


「ロンドリ、う、うるさいから。叫ばないの」


「ご、ごめんなさいっ」


「おかしいのは、ろ、ロンドリもだけど。この杖も」


「そ、それはそうでしょう。『生い立ち』がハチャメチャにグロテスクですから」


「まあ。そ、そうだけど。さっきまでの文字と、しゅ、種類が違っているんだ」


「ひゃ、『百星神殿』文字では、なくなっている?」


「そう。も、もっと、古い言葉に、な、なってきているみたい」

「そ、そんなコトもあるんですね……っ」


「高度な呪術アイテムのたぐいは、自ら成長するモノも多くありますので。この『死者送りの杖』も、それらのひとつなのでしょう」


「ま、ますます強力になってくんだ……」


「成長してくれるのは、う、嬉しいけれど。勉強しても、他の言語が浮かび上がるようになったら、こ、『この子』と対話できない」


「困りましたね」


「そ、それじゃあ。成長の方向を、誘導してあげればいいじゃないでしょうか?」


「え? そ、そんなの、できるの?」


「い、いや。その、た、ただの思い付きですけれどっ」


「むー。が、学芸員さん、アイデアある? この子に、お、お勉強させる方法?」


「そうですね。この文字の混在っぷりを見ると、『死者送りの杖』は周辺にある文字情報を認識して、それを学びながら表現している。模倣を繰り返して、成長しているようです」


「ふむふむ」


「一定の言語しかない場所に、『保管』しておけば。『死者送りの杖』はそれらの言語を標準使用し始めるのではないでしょうか?」


「な、なるほど。良さそうなアイデアですね」


「呪術アイテムの専門家ではないので、確かな方法とは言えませんが……」


「ううん。い、いいカンジだと思う。この子は賢いんだ。た、たくさんの言語を使って、私と対話したがっているけれど。私の賢さじゃ、そ、そこまでたくさんの言語は使えない。だから。ちょ、調教するね!」


「ちょ、調教っ!?」


 その純文学のニオイのする単語に、ボクは声を裏返していました。なんて、淫らな……じゃなくて!


「ど、どうするの?」


「ネクロマンサー言葉しか、しゃ、しゃべれない悪霊たちがいる地獄に、しばらくつけておくの」


「よ、よくわからないのに、とても怖いんですけれど」


「つけておく? つまり、マリネやピクルスのように?」


「うん。た、たっぷり、つけておけば。ちょ、調教完了。い、いひひ! いいアイデアだよね」


「そ、そうなのかな。ボクには、わ、わからないや……っ」


 あ、ああ。もうローズちゃんは聞いちゃいない。床に、チョークで魔法陣を書いた。


「地獄よ、地獄よ。ろ、労働の地獄。働き者たちの穴の底に……こ、この子を、留学調教させたげて……いひひ!」


 笑いながら、ローズちゃんは『死者送りの杖』を、その魔法陣の中心に生まれた、紫色にかがやきながら渦巻く謎の『穴』へと、差し込んでいくんだ……。


「いってらっしゃーい。た、たくさん。学んでくるんだよお。いひひ!」


「あ、ああ。紫色にかがやく、た、たくさんの手が、手がっ。杖を、ひ、引きずり込んでいく……っ」


「ふむ。地獄に落ちたのですね」


「うん。し、しばらく、留学。ありがとう、が、学芸員さん。私だけだと、あ、あの子にこうしてあげられなかったよ!」


 ……良き行動なのだろうか。杖が、かわいそうな気もするけれど……っ。


「いえいえ。学術的な探求を手助けするために、私たちはいるんです」


「……っ。い、インテリのお姉さん、カッコいい。あ、あこがれちゃう」


「ウフフ。ありがとうございます」


 ほのぼのとした空気になっていて、いいのだろうか。地獄への直通穴、まだ紫色の光を放っているんだけど。あの光を浴びると、か、カラダに悪いとかないかな……っ。


「ふあああ。そ、そろそろ、疲れたから。この本を持って、帰るね」


「ええ。お疲れさまでした」


「うん。お、お姉さんも。お疲れさまでしたあ」


「お帰りは、こちらからどうぞ」


「ん・ふわああ……」


 あくびしながら去っていくローズちゃんと、学芸員さん。ぼ、ボクは、この紫色の光を放つ穴と二人きりになるのは、すごく嫌だったんだ!!


「ま、待って!! ボクも、ボクも帰りますううううう!!」


 勇気がない?


 そうかもしれません。でも、地獄への直通穴のすぐそばにいて平気なヤツは、それはそれでおかしいと思いませんか!?



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