第九話 『傭兵ブーム到来!?』 その19/財宝がダンジョンにある理由!


「が、学芸員さん……クールで、知的な眼鏡女子だ……っ。純文学を感じるよっ」


「ロンドリ、へ、ヘンタイみたいだから……いや、へ、ヘンタイだけど、つつしんで」


「え、ええ!? 変態じゃ、ありませんよっ。しょ、小説家なだけです」


「ううん。へ、ヘンタイだよ、すくなくともロンドリは……おかしいんだ」


 ショックを受けました。


 や、やはり、小説家や文化人は、世間様から悪い評価を受けやすいのかもしれません。


「じゃあ。が、学芸員さん。この『百星神殿』文字の、よ、読み方を勉強できちゃう本を、貸してくださいっ」


「これは……不思議な杖ですね」


「うん。と、とっても貴重な杖なんだ」


「保険はかけておられますか? 盗まれたりしたら、大変ですよ」


「大丈夫だよ。ぬ、盗もうとしたヤツは、杖が攻撃しちゃうから」


「杖が攻撃を……実に、興味深いですね」


 さ、さすがは学芸員さん。知的なオトナ女子は、あんな恐ろしい杖であっても、知的好奇心が旺盛なんだ。


 正体を知らないからだろうか。魔神たちの生贄になった人々の、血と悪霊で作られたのが『死者送りの杖』なんだけれど。


「これね。た、たくさんの生贄になった人たちの、お、怨念と苦痛の叫びと、血と悪霊でつくられているの。め、めちゃくちゃ危険な杖だから。盗まれないんだ」


「ステキですね。物語を秘めたアイテムには、敬意を示したくなります」


「うん。よ、読める?」


「近くで、見せてくださいますか?」


「もちろん。は、はい」


「どれどれ……」


 す、すごいや。


 ぜんぜんひるまない。


 ひるまないどころか、『死者送りの杖』を触っているんだ……っ。


 白手袋をつけたままだけど、あんなおぞましい杖を、ペタペタとよく触れる…………。


 ……なんだろう。ボクが思春期のせいか、ちょっとエッチに見えるんだ!


 知的な女性ほど、大人のレスリングが変則的なものになりやすいと聞いたコトがある。知的好奇心が大きすぎて、通常の大人のレスリングでは満足できなくなるって……。


 ああ。


 もう。


「た、たまりません!!」


「ロンドリ、き、気持ち悪いだけじゃなくて、邪魔だから。し、仕事してて」


「は、はいっ。もうしわけありません……っ」


 ボクの作業は、とても地味なものでした。


 何をしていたかというと、王侯貴族の所有していた財宝たち。美術館の人たちは、それらの伝統ある財宝たちのなかで、何者かに奪われた品についてリストアップしていました。


 レオンさんとすれば、この品々を回収して、美術館や王侯貴族に返還するというクエストを作りたいわけです。


 ボクはリストアップされた財宝たちを『財宝名鑑』と照らし合わせて、その外観の情報を得ます。先人たちが『絵』として書き残してくれた、財宝の『形』。


 それらを『手配書』として描いていくわけです。


 たとえば、『レッドウッド家の黄金の腕輪』は、黄金製で380グラムの重さ……としか美術館側のリストには書いてありませんが、『財宝名鑑』には具体的な『絵』が載っているわけです。


 ボクの手書きの絵とはいえ、手配書に『レッドウッド家の黄金の腕輪』の姿かたちが記されていれば、探索しやすくなるというもの。


 はい。


 なかなか地味なお仕事でしたが、文章だけで記された手配書よりも、ずっと探索が楽になりますので。


 あとは、美術館名物の『古新聞』によって情報集めも行います。


 内戦時代や魔王戦争時代の新聞も、美術館には大量に保存されているのです。ボクはそれらの情報も確認して、財宝たちが失われた経緯についても手配書に記述していきました。


 それは財宝の追跡に役立つ情報だと考えているからです。


 黄金の腕輪が消えたのは、30年も昔。持ち主である男爵の家に、強盗団が押し入ったようです。残酷な強盗団は、男爵とその家族を……殺害。そして、多くの金品を盗みましたが、そのなかで最も高価であり、男爵家の象徴とも呼べる品が、黄金の腕輪でした。


 ……略奪されることで、多くの芸術品が失われていくわけですね。


 思えば、何とも、悲しいコトです。


 しかし。


 魔王戦争時代になると、黄金の腕輪についての情報が新聞に現れます。魔王軍というものは、『通商攻撃』を仕掛けてきました。ボクたち人類側の経済に対して、攻撃してくるんです。


 銀行を襲ったり、お金を盗んだりしました。モンスターたちにとって、そんなものを盗んだトコロで、何にもなりませんよね?


 でも。魔王ガイ・ジアスは理解していました。「人類社会から貨幣を奪えば、大混乱するぞ!」と。


 賢いというか、どこか人間臭い戦略というか。ガイ・ジアスは、モンスターたちに財宝や貨幣を盗ませてもいきました。黄金もそうです。


 貴金属が大量に失われたコトで、決済ができなくなったんです。魔王戦争時代、黄金や財宝を引き換えに商人や農家から商品を買い取ったりしていたので。


 それらが魔王軍に奪われてしまえば、人類は商品の売買がやれなくなる。


 たとえば、ボクが粉屋に対して、財宝『黄金の腕輪』と引き換えに、500トンの小麦粉を購入したとするじゃないですか。


 ボクは銀行に『黄金の腕輪』を渡して、500トンの小麦粉を得る。


 粉屋は銀行から『黄金の腕輪』あるいは、それ相応の金銭を送ってもらうわけです。


 でも。


 銀行のモンスターが襲撃して、『黄金の腕輪』を奪われたら……?


 粉屋はボクから500トンの小麦粉を奪い返したくなるでしょう。「報酬をもらっていない」となるわけですから、でも、ボクは『黄金の腕輪』を支払っている。だから、銀行に責任を取ってもらうわけですが……。


 一度や二度ならともかく、『無数の財宝強奪事件』が起きれば?


 銀行はすぐに機能できなくなってしまうわけです。


 銀行が機能できなくなると、ボクたちは借金もできなくなります。500トンの小麦粉を得たボクは、それでパン屋を始めようとしていたとしますよね。


 銀行から、パン屋を建てるためのお金だとか、スタッフに支払うためのお金を借りるコトで、業務を開始できるわけです。借金は、パン屋の稼ぎで返していけばいい。普通は、そうやって商売をしているわけです。


 でも。銀行がなければ、業務を開始するための借金もできないわけで……。


 ガイ・ジアスは、その種の攻撃を見事なまでに実行して、人類の経済に対して破壊的なダメージをあたえてきたわけです。


 まあ。


 それはさておき。『魔王軍は人類から財宝を奪っていた』という事実は大きくて、財宝を取り返そうと冒険者に依頼した貴族たちも多くいました。


 冒険者とモンスターのあいだで、財宝争奪戦が発生し……その結果、失われて行方不明になった『黄金の腕輪』を見た、という情報が散見されるようになりました。


 かつて男爵家から奪われた財宝が、モンスターによって奪われて、それらを冒険者が奪い返し、また奪われて……。


 そのような状況が起きてしまい、内戦時代に失われたハズの財宝たちの目撃情報が、魔王戦争時代には多く発生したというわけです。


 人類のあいだでの財宝の奪い合いに、モンスターが介入するコトで、失われたハズの男爵家の財宝は人々の目の前に現れた。魔王戦争時代というアクシデントにより、失われた歴史が再発見されてしまったわけで。


 そう思うと。


 なかなか、興味深いなあと思いながら。この種の地味な仕事をつづけられたわけです。



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