第八話 『呪われた鎧と消えた王子』 その48/王国自由騎士


 VIPの到着となると、いそがしくなるのが宮仕えの悲しいトコロだったりするのかもしれない。密偵ラキアはあわただしく、罠の解除に取り掛かった。


 ヴィルヘルム王子さまの護衛たちも、騎士というよりも……密偵と、暗殺者の割合も多かったようで、彼ら彼女らも罠の解除を同時にしてくれたものだから、すぐにヴィルヘルム王子さまは、この激戦の跡地へと現れたのだ。


 意外……だったのだろうか。


 見知った顔もいた。


「マクシミリアン王子さま」


「……レオンハルト・ブレイディか。つくづく、トラブルに縁がある男だな」


「そうかもしれません」


「不運が過ぎるように思うよ」


「混沌神ルメに、幸運を喰わせてきましたので」


「魔神の力を、使いすぎるものじゃない。不幸になるぞ」


「不運かもしれませんが、不幸かどうかはわかりません。今夜も、事件をひとつ解決できましたから」


「……兄上を、見つけてくれたか」


「どうにか」


「ああ!! 兄上!!」


 叫んだのはマクシミリアン王子さまじゃなくて、ヴィルヘルム王子さまのほうだ。


 横たわる彼のもとへと駆け寄って、戦いで傷ついた手を握りしめている。


「亡くなられたあとまで、このような目に遭わされるとは!! 魔神たちよ、どうか我が兄に、大いなる慈悲をあたえてくれたまえ!!」


 ヴィルヘルム王子さまは、魔神の信仰者らしい。『百星神殿』の枢機卿の娘婿ともなれば、それは当然なのかもしれなかった。


 長い祈りの聖句を、ヴィルヘルム王子さまは兄の死体に捧げている……。


「……お二人は、仲が良かったのか」


「……ああ。兄たちは、とくに仲がいい。私が……嫉妬するほどに」


 マクシミリアン王子さまとは、母親が違う兄たち。どこか、ギクシャクするような距離感があるのかもしれない。なにせ、彼は、髪の色をより赤く染めてまで、王家の一員らしく振舞おうとしているのだから。


 それは、悲しい努力にも思える。兄弟のかたちというのは、本当にたくさんあるものだった。今だって、彼は遠慮している。兄たちのそばに行かず、何故かオレのとなりで彼らを見守っているのだ。近寄る権利が、ないかのように。


 ひとしきり泣かれたヴィルヘルム王子さまは、やがて立ち上がる。平静さを装った表情を作り上げると、オレたち冒険者を見回していた。


「……王都の冒険者たちよ。感謝するぞ。賊に奪われた兄を、よく見つけ出してくれた」


「少しでも、エリアス王子さまが安らかに眠られるよう、努力させていただきました。敵に操られた、彼と……戦ってしまいましたが。可能な限り、最小限のダメージでした」


「わかっている。諸君らの努力は、その痛ましいまでのすがたを見れば、伝わってくる。大儀であった」


「ありがとうございます」


「……兄を、兄の遺体を、盗んだ賊の正体はわかっているのだろうか?」


「……奪った敵は、アルベルト・ヨハンソンです」


「……それは。もしや……っ」


「レフトン連邦の、かつての議長。アレク・ヨハンソンの息子のひとり。生きていたようです」


「なんということだ……」


 密偵ラキアが近づいてくる。無表情のままだが、「言わないでほしいのかしらね、真実を。それとも、ただ密偵としてのポーズなのか……」。わからないけれど、やるべきコトはある。


「アルベルト・ヨハンソン自身の言葉ですので、すべてを鵜呑みにしていいかはわかりません。彼が言うには―――」


「―――レオンハルト・ブレイディ。それは」


「密偵よ。口をはさむな」


「……御意に、でござる」


「『アルステイム/長い舌の猫』には、口出しはさせない。レオンハルト・ブレイディよ、赤毛の王国自由騎士よ。君が知ったであろう真実を、伝えてくれるか」


「ええ。すべてを包み隠さず、お伝えしまう。アルベルト・ヨハンソンの、命がけの主張を……」


 ヤツが語った言葉を、すべて報告した。それは、何とも衝撃的な事実だったハズ。自分の義理の父親が、ファーガルでの内戦を作り出した張本人のようにも見えたから。


 それに。


 王国の密偵が、事の発端でもあったのだから、これはルクレート王国の責任でもある。いい機会だ。オレが、どうやらアドルフ・イェーガーの孫だというコトも、伝えておこうか……「やめときなさい。弟と相談してから決めるべきかもしれないわ」。たしかに、それは、そうかも。「どうせ、知るべき立場の人々には、ラキアが報告済みでしょうから」。そうだったな。


「ヨハンソン議長の遺児は……いや、アルベルト・ヨハンソンは、どこに?」


「オレと戦い重傷を負いました。そのあと、城壁を爆破しながら飛び降りたんです」


「死体は、未確認だと」


「……ええ。生きているとは、考えにくいですが」


「お前たち」


 護衛の方々が、素早く動き始めた。ヤツの死体を見つけるために……生きていれば、仕留めるか、捕らえるために。


「……彼に、詫びたくなる」


「……貴方が、王さまになられるのなら」


「それは、父が……陛下が決められるのだ」


「……もしも、王さまになられたときは、やさしい王さまでいてください。それが、おそらく。ヨハンソン一家や、この土地の内戦で亡くなられた方々にとって最大の慰めになる。争いが、より少ないような治世であれば、革命を実行しようとするテロリストも、現れずに済むでしょう」


「心得た。レオンハルト・ブレイディ、王国自由騎士の称号に相応しい戦いであった。君が、兄にしてくれた行いを、生涯忘れはしない」



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