第六話 『天涯より来たりて』 その27/混沌のしもべたち!?


 魔神という者は、信仰される対象だけに……。


 たくさんの信者はもちろんだが、契約者を何人も持っていた。たったひとりだけの契約者しかいないなら、気楽なものだけれど。そうじゃないから、厄介だ。ひとりの美女を取り合う、アホな男の群れを想像してくれ。


 オレたち人類は、いつも魔神に見られているらしく、ときどき見初められて声をかけられ、力までもらえる。何らかの試練/タスクを実行することでね。


 魔神からの力は、魅力的。


 自分の運、自分の寿命、人生の楽しみ、人生の可能性……。


 そういったものを、魔神に捧げる『だけ』で、神がかった力を使用できるんだ。安いもんだろ。平和な時代の一般市民だったら、もしかして選ばないかもしれないが、オレたちは三年前まで魔王戦争という地獄の時代を生きていたわけだから。


 多くの冒険者が、『魔神憑き』になった。


 そうでもしなければ、魔王軍を追い返せもしなかっただろう。クレアだって、もっと早くに男がくれる快楽を知ったかもしれないし、処女を捧げた翌日の朝から剣術の稽古なんてしなかったかも。


 魔神からの契約は、性格だって変えていく。いやいや、もっと大きいかな。人生そのものを、魔神の思惑に沿うように歪められてしまうんだ。


 まあ、そんなに恐ろしくもないし、おぞましくもない。歪められた方向そのものが、契約者本来の性質に、極めて合っている場合が多いからだよ。クレアがマジメなのは、クレアのためになっている。


 オレがルメに振り回されるのも、実に楽しい。シデン・ボニャスキーほどじゃないが、反社会的な性格をしているからだな。冒険者でいたいし、誰かの役に立ちたい。それらの目的のためなら、命を捨てる覚悟を一秒以内にやれちまう。


 恐ろしいコトだろ?


 でも、それはオレの気質に合っているんだよ。


「まさか、あのシデン・ボニャスキーが、顔面ぶん殴るぐらいで済まさなかっただろうな」


「むろん。追いかけた」


「さすがだ。ジジ・バスラのアジトを見つけたと」


「『フラガーの街』にも、混沌神のカルトがある」


「マジかよ」


「お前は通わないのか?」


「行かねえよ。ルメとは契約を交わしたビジネス・パートナーだが、崇拝しているわけじゃない。友人……悪友……仲間……なんか、そういうカンジだ。トモダチを尊敬して信頼していたとしても、像を作って崇めて祀ったりしないだろ?」


「ジジ・バスラが向かったのは、そこだな」


「ルメの……像がある場所か」


「およその場合で、混沌神の石像のすがたは朝食時にみたい形状をしてはいない」


「本人、傷ついちまうかもな。オレからすれば、ルメは……美少女のたぐいなんだぞ」


「無数のモンスターや、不快とされる動物を混ぜたもの。蛇やサソリやムカデなどを。人間の『頭部』も五つ六つある。『フラガーの街』の繁華街にある路地の奥、薄暗く湿った地下の祭祀場にはな」


「混沌神ってのは、どうしてそんな……」


「混沌神だからだろ。現状を破壊し、おぞましいまでの革新を世の中に受胎させる。破壊あっての、急成長。それを表現するには、そこそこ妥当なすがただと思わないか?」


「そうかね。美少女の神像のほうがいいと思う。ルメ本人だって、そっちのすがたが好きだから、美少女やってるんだろ」


「魔神の思惑など、人でははかりかねる」


「……それで。ジジ・バスラは……」


「そのカルトの現場は、地下酒場でもあるんだ。文字通り地下にあるが……正しい経営免許を取っていない。取れるわけがない店だ」


「違法のお店なのか?」


「そうだとも。何せ酒だけでなく、淫らな行為と麻薬まで供給してくれるような、あまり毛色のいい店ではない」


「カルトやってるエッチでダークな酒場とか……混沌ここに極まれりってカンジの邪悪空間っすね!」


「女性がひとりで入るべき店ではないぞ! というか、誰も入ってはならん!」


 クレアが激怒する理由もわかる。だって、あまりにも不道徳な店だから……おぞましいすがたの神像の前で、麻薬と売春を楽しむなんぞ…………人生で、一度は行ってみたい気もする。


 だが、王立ギルドの長がそんな場所に行っているとすれば、執行猶予から実刑にされてしまいそうな気配がする。公職の方のスキャンダルって、すごく怒られるもんな。市民って、公職をいじめるときだけは潔癖じゃなくなりがちだし。


「いいか、クレア・ハートリー。いい女は、そういう店には好まれるものだぞ」


「な、なんか、セクシーですね! そんなアングラなお店に、美女が……ああ! 純文学う!!」


「黙るっす。ロンドリくん、マジで気持ち悪いから」


「ご、ごめんなさいっ。でも、思春期の少年なんですよ、ボク。純文学を求めてしまうのは、性/サガというか?」


「黙れっす」


「は、はい」


「それで、ジジ・バスラは何を? 地下のうす暗い違法酒場で、ルメ信仰に夢中だったのか?」


「夢中だったな。ジジ・バスラだけなら、まだ良かったが。かなりの数のカルト信者どもがいた。乱交パーティーでもやるのかと思っていたが、しごく、マジメだったな。「混沌に血を捧げろ」。非常に狂暴な集会をやっていた。連中は、テロリスト集団になっている。混沌神の信徒には、ままありがちだな」



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