第六話 『天涯より来たりて』 その26/罪人のような必死さで!


「実は密偵に対して、すでに報告をしている。手紙を送ったのさ」


「そんなコネがあったのか」


「貴族に知り合いのひとりやふたり、いるだろ?」


「……クレアやベクトラ伯爵を数えていいならな」


「冒険者をやっていれば、おかしな人脈も作られるものだ」


「とにかく。急いで王さまに伝えなくてもいいってコトか」


「そうなるな。すでに密偵には通じている。連中も、何らかの対処はするだろう」


「じゃあ、詳しく事情を教えてもらおうじゃないか!」


「首を突っ込む気とは、物好きめ」


「そういう事態のために、お前を雇っている。オレは王都の治安を守りたいんだよ。お前もだろ?」


「同意してやろう。長く居ついた街には、それなりの愛着もある」


「……パン、焼けたっすけど」


「食べるさ。もちろん。もぐもぐ」


「こ、このマイペースさ! 憧れますっ!!」


「ロンドリくん、その種の反社会性に対して、あこがれなんて持っちゃダメよ」


「で、ですかね……っ」


「そうっすよ。ただでさえ、かなりの変人なのに」


「げ、芸術家は、やはり誤解されやすいんだ」


「その通り。しかし、はげめよ、少年。芸術の道を、突き進め」


「わ、わかりました! 純文学のためにも、ぜひ、テロリストどもの情報をお聞かせください!」


「あんまり、テロリストとか大声で叫ばないで欲しいっすよ」


「連中と出会ったのは、お前らと別れてから。ダーストリアを離脱した私は、どこに行ったと思う?」


「王都にいるってコトは、こっちに向かっていたのか」


「そう。ベクトラの『ハンティング・フィールド』を、密偵に追いかけられながら脱出したのだ」


「お、追われたんですか?」


「そりゃ、そうでしょう。だって、シデンは……」


「指名手配犯、だ、だもんね!」


「その通り。密偵という連中は、なかなか仕事熱心だ。向こうもかなり疲弊していたハズなのに、追いつかれそうになったぞ」


「むしろ、逃げ切れたのがスゴイと思うのだが」


「クレア・ハートリー。密偵や騎士団を、あまり高く評価しすぎるなよ。優れている者は、ほんの一握りに過ぎん」


「身びいき、してしまっているだろうか」


「少なからず。権威に対して、あまり過大評価するものではないぞ」


「何だか、テロリストみたいな価値観になってきてないか?」


 オレの指摘に、シデンは笑った。


「革命家、あるいは、活動家と言ってほしい。私はな、権力に対して疑問を抱くべきだと人々に説きたいだけだ」


「ガチモンの指名手配犯は、言うコトが違うぜ。それで……『フラガーの街』まで、お前は逃げ伸びたのか」


「少しは知恵をつけたらしい」


「地理的条件を考えれば、当然だろう」


「『フラガーの街』の路地裏は、私の遊び場のひとつだ。以前のパーティの仲間も、そこで酒場を開いている」


「マジか。今度、行かなくちゃな」


「高い酒を頼めよ」


「それで」


「酒場に逃げ込み、かくまってもらった。密偵も、疲弊していたからか、とっとと消えてしまった。私を追いかけている場合でも、なくなったから」


「どっちのニュースが届いた?」


「探ろうとするなよ。『どっちのニュース』だって?」


「知っているんだな。マクシミリアン王子さまが、ベクトラを刺したかもしれないと」


「私が、そのとき知ったのは、エリアス王子の死だ。マクシミリアン王子については……お前なら、予想が着くか」


「クロウ・ネーモに接触した」


「冒険者が選ぶ道など、そう多くはない。悪人の足跡を追いかけたときは、似たようなものだ」


「お前もクロウ・ネーモを尋問したと」


「感心したぞ。そこのチビ助。あの悪徳商人を、ネクロマンサーの呪術で脅したか」


「うっさい、ひ、貧乳」


「ほめてやっているのにな。今後も、あの種の悪人には、容赦をしてやるなよ」


「それは、う、うん。そうする!」


「悪人は、多いからな。エリアス王子の死を聞き、クロウ・ネーモのもとを訪れた。そこで、マクシミリアン王子の事件も聞いた。悪徳商人も私も、密偵がこのマクシミリアン王子の事件を隠すために、エリアス王子を暗殺したのかと疑ったものだ」


「だとすれば、時間がおかしい。陰謀論も、時間を超越するのはムリだろ」


「たしかに。ふたつの出来事は、『ほとんど同時』に起きていた。とても離れていた場所で」


「密偵は、関与していない」


「断言するなよ。エリートを信用し過ぎるのは、権力に近寄ってしまった悪影響だぞ」


「いい連中だ。まあ、王子たちに仕えているというより、王家そのものへの忠誠らしいが」


「私は、悪徳商人の家を出てから、尾行された」


「まさか、み、密偵たちに?」


「違ったな。私が前々から警戒していた、元・冒険者にだよ」


「そいつが、テロリスト?」


「ああ。冒険者時代に、国王の名の下において逮捕された片目のクズ野郎……そう言えば、わかるかな」


「まさか。ジジ・バスラ?」


「そ、そいつって……アガート寺院の事件の……っ!?」


「ああ。魔神の信奉者……いや、狂信者だな。『魔神憑き』となったあと、タスクをあたえられた。敵対神の寺院を、襲撃しろと」


「死者こそ出なかったが、僧侶たちは拷問を受けていた。あいつを捕まえたのは……」


「私のパーティだ。お前たちと、競り合うように追いかけたが。勝利したのは」


「そのときは、そっちだった」


「かつてジジを追い詰めたとき、冒険者の手でケジメをつけるべきか……つまり、殺すべきか迷ったのだが。あのとき、私が殺さずに捕縛しろと提案したのを、覚えていたらしい。気持ちの悪い男だな。『オレと組まねえか。王家に復讐したいんだろ』。顔面をぶん殴り、追い払ってやった」


「か、カッコいい!」


「だが。ジジは、刑務所行きのハズだろ」


「終身刑にされたはずだな。あの事件は、冒険者全員の立場を悪くしたし、負傷者の数が多すぎた」


「でも、そ、そいつが、外に出てるのは……っ」


「もちろん。脱獄したのさ。『魔神憑き』の冒険者が、いつまでも監獄に閉じ込められているとは限らん。お前でも、脱獄するだろ?」


「……かもしれんな」


「おい」


「何だ?」


「そんなぬるい回答は、気に食わんぞ。ジジ・バスラと関わる気なら、甘えは許されん」


「……脱獄する。背負ったものが、色々とあるから。監獄で、何年も過ごしたくねえ」


「いい答えだ。その犯罪者みたいな必死さを、上手くコントロールしろ。そうすれば、ジジ・バスラを倒せる。『同じ混沌神ルメの契約者』として、より強くなれるさ」

 


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