第六話 『天涯より来たりて』 その10/不穏な未来を追いかけて


 かなりの冒険になってしまったから、『木漏れ日亭』に戻ると、ちょっと泣きそうになったよ。


「成し遂げたってカンジ!」


「お帰りなさいっす。レオさん、みなさん!」


「お、お帰りですっ」


「ああ。元気だったか、シェルフィー、ロンドリ」


「昨日、出かけたばかりっすよ……って! ああ、ロッドさん! 無事だったんすね!?」


「あ、ああ。ケネスが、世話になったとか」


「いいんすよ。ちょっと料理作っただけっすからね! でも、良かった。死亡フラグを感じるって、ロンドリくんが言うんで、心配したっすよ」


「そ、その!? す、すみませんっ」


「怒りはしない。実際、あまりいい状況には巻き込まれなかったわけだから」


「そ、そうだったんですね。そのうちでいいので。しゅ、取材、させてもらっても……い、いいですか? 純文学を、書きたくて」


「お。そうだ。ロンドリ。情報を、ポロポロ漏らさないようにしろよ」


「え、ええと……どのコト、でしょうか?」


「こいつ、だ、ダメ冒険者だ」


「はあ。本当にダメな子っすね。ロンドリくん」


「ご、ごめんなさい。ぼ、ボク、つい、取材相手とかにも情報を漏らしちゃう癖があって。だ、だって。話したいじゃないですか? 秘密とか?」


「サイコパス商人ほどじゃないが、良くない思考回路を持っているぞ。いいか。シデン以外には、漏らさないようにしてくれ」


「し、シデンさんは、例外なんですね?」


「もちろん。仲間だからな」


「……も、もしかして、シデンさんにも手を出しているんですか?」


「はあ?」


「そ、その。貴方の毒牙の犠牲となったシェルフィーさ―――」


「―――黙れ、ロンドリ! 蒸し返すんじゃないっすよ!」


「は、はいいっ」


「シデンには、手なんて出してないぞ。エロい目で、見るコトはあったがな」


「素直に発言しなくてもいいんすよ、レオさん」


「そうかな」


「そうっす」


「とにかく、オレは……ケネスのところに戻るよ」


「じゃあ、私も往診に行きましょう。昨日今日で、何が変わるわけでもないですけど。冒険者は見捨ててないって、伝えたい。レオンくんは、別件もあるでしょうから」


「あ、ああ。エリアス王子殿下が亡くなられた件っすか……?」


「まあな。王都でも、その話題、出回っているのか」


「も、もちろんですよ。半旗も掲げられて……お通夜ムードに王都が染まってます」


「……大変な時期に、お邪魔してしまったわね」


「その美人、誰っすか?」


「ま、また新たな毒牙の犠牲者……」


「毒牙の犠牲者ではなく、王立冒険者【再就職】支援ギルドの事務員……予定の、ニコレッタ・クインシーです」


「新しい事務員さんっすか。よろしくっす! シェルフィー・メイメイっす。ギルドの拠点として場所貸している『木漏れ日亭』の看板娘で、一応は、ギルドのスタッフっす」


「一応じゃなくて、オリジナル・メンバーだ。プライムな存在だろ」


「レオさんに、そう言ってもらえると、嬉しいっすね! あ。あと……その、ちょっと、お伝えしておきたいコトがあるっす! ロンドリくんとレオさん、こっちに!」


 いきなりシェルフィーの私室に連れ込まれた。ロンドリもいっしょにな。


「なんだ? 愛の告白か?」


「笑えないっすからね、それ」


「こ、ここが現場だったのかも……」


「黙るっす」


「は、はい」


「じつはっすね。魔導書ゾーギが、やって来たんすよ」


「ゾーギが?」


「犬になったままなんですけれど。その、しゃべったっすよ、犬のまま」


「マジか」


「内容が、良くなかったっすね。その、不吉な未来予測を、ヤツは魔法で見せてくれた。私と、ロンドリくんが見た光景があるっす」


「なんだ?」


「そ、その。あれです。王城の大広間が、炎に包まれる状況で、じょ、女性と、マクシミリアン王子が、ダンスを踊っていました」


「……どういう意味だ?」


「それが、近未来に起きるかもとのコトっす。何か、不穏な気配っすよね」


「燃えるってのが、ろくでもねえな」


「は、はい。それに、その情報を聞いて心配していたら、エリアス王子殿下が亡くなられましたし……まるで、あ、暗殺されたんじゃないかって気持ちにもなるでしょう」


「……陰謀論に、囚われ過ぎてはいかん」


「それは、そ、そうですが」


「レオさん。ゾーギは、『国崩しの令嬢』という言葉も、伝えたっす。その女が、どうやらそのトラブルの元凶らしく……」


「……なんで、その名前、知っているんだ?」


「心当たりが、あるんすね。『国崩しの令嬢』について」


「あるよ。そりゃ。こないだ、書いたばかりのメモを、ビリビリに引き裂いて暖炉で燃やしていただろ?」


「レオンハルトさん、何ですか、そのヘンテコな行い」


「うるせえよ。とにかく、あのとき……夢を見ていた。混沌神ルメが見せてくれた夢だ」


「どんな夢だったんすか?」


「ルメに似た女が……自分の子を、王さまにしたがっていた。彼女は、ルメと契約した。自分の幸運を捧げることで、子供に幸運を渡したようだ。ルメが言うには、この女が『国崩しの令嬢』とやらだ」


「……そ、それ。その。もし、あの気持ちの悪い仔犬の見せた未来が、ほ、本当だったら。めちゃくちゃ、怪しくありません?」


「何が言いたい」


「だって、王位継承権第一位の方が、な、亡くなられたんですよ? 病死ってハナシですけれど、本当に?」


「『国崩しの令嬢』が『誰』だと思っているんだ、ロンドリ」


「……マクシミリアン王子さまの、お母さん」


「……オレは、王さまの弟の母親だと思ったんだがな」


「で、でも。魔導書が正しければ、マクシミリアン王子さまと踊っていました」


「ルメそっくりの女と?」


「こ、混沌神なんて、見たコトあるわけないじゃないですか?」


「魔神が見えるのは、契約者だけっすもんね」


「え、絵とか、描けませんか? この、メモに……」


「そういうの、宇宙一苦手だぞ」


「描いてみるっすよ」


「そ、そうです。周りと情報共有できたら、探すのが楽になる」


「……笑うなよ。下手だからな」


「笑わないっす。そんな状況じゃないんすから!」


「そ、そうですよ。国家的な危機なのかもしれないんですよ?」


 マジメな顔しやがる。だから……。


 描いてみた。


 そして、年下どもに大爆笑されたんだ。


「あはははははは!! ど、ド下手くそっす!!」


「こ、こんなミュータントだったら、怖くて契約できませんね!!」


 怒りは、端的に表現するタイプなんだよ。


「みゅぎゃああ!? え、エルフ耳を、ひっぱらないでええ!?」


「い、痛いいい!? ちぎれちゃいます、ボクのしっぽおお!?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る