第六話 『天涯より来たりて』 その9/サイコパスへの依頼


 王子さまは、密偵たちに護衛されながら王都へと戻った。


 オレたちは伯爵から報酬をもらったよ。クエストのな。放火は、アイーダたちのせいだと。殺意が強かったように見えるとまでは、教えなかった。だって、そんなのはとっくにわかっているから。


 ああ。追加で、『ちょっとしたクエスト』ももらったな。消化しておくとする。


 マリと合流したよ。セレスティアお嬢さまは、かなり疲れているとのコトだった。密偵からの尋問でも、彼女はひるまずに「王子さまが刺しました」と答えている。


「あれは、圧迫面接というか。脅迫なのよね。王子さまが刺したという事実を、隠蔽したいのよ。密偵さんたちから、お金も渡されそうになったわ」


「賄賂だ、も、もしかして……もらったの?」


「もらうわよ。悪い?」


「悪くは、な、ないけど。でも、真実を追いかけてほうが、い、いいような……」


「冒険者って、そういう仕事でもなかったと思うけど」


「そうかな?」


「レオンくん、余計なコトに首突っ込まないほうがいいわよ」


「そいつは、ちょっと学んだ」


「私も、久しぶりに、王侯貴族の怖いトコ、見ちゃったかもね。怖くて、賄賂を受け取らないっていう選択肢を、とても選べなかったわ」


「絶対、え、選べたと思う。マリ、しゅ、守銭奴だもんね!」


「お金は、大事だもの」


「まあ、それはそうだ」


 そう発言したのは、ロッド・バーンだよ。彼にも、伯爵は金を握らせた。その理由は、これもまた口封じのためのお金ってわけさ。


「もらうべき、だったのだろうか」


「もらうべきよ。伯爵が、くれたんでしょ?」


「それに、お前はとくに金が要るだろ」


「ケネスの、ためにはな……一財産、作っておきたかったが。これでは、足りん」


「地道に稼ぐしかないわ。人生、一発逆転だとか、そういうろくでもない考えは捨てるようにしないとね」


 超がつくほどの正論だった。


 でも、男って、やっぱり一発逆転のデカい稼ぎに憧れるものだし。おそらく、マリもデカい稼ぎのクエストがあると、乗ってくると思う。


「いずれにせよ。急いで、馬車を出すとしようぜ。戻らなくちゃならん。エリアス王子の葬式にも、出たい。何より、王さまを……はげましてやりたい」


「王立ギルドの長なんだし、行くべきよね」


「冒険者全員がだ。オレたちは、王さまからクエストをもらっていない者は、いないんだからな。強いモンスターや、魔族を討ち取った日には、パーティーまでしてくれたじゃないか。恩があるよ」


「うん。わ、私も、貯水池周りの木にね、あ、悪霊を封じ込めて、護衛を作った。あれ、お、王さまからのクエスト。おかげで……長く、ひ、引きこもりがやれたんだ」


 引きこもってしまったコトはともかく、人生を送れるための金をくれたってのはありがたい事実だよな。


「王さまには、みんな恩がある。息子に先立たれて、悲しんでいるだろうから。何でもやろう」


「……レオンハルト。お前が、王城にテロを仕掛けた割りには、王さまから信頼されている理由が、ちょっとわかったかもしれない」


「情に厚いんだよ」


「いいヤツだな」


「知っている。面倒見もいいんだぜ」


「……だとしても、あんな恐ろしい密偵たちがいるのに、よくギルド長にしてもらえたわね」


「普通、極刑か指名手配だろうに」


「レオお兄ちゃんは、う、運も悪いのにね!」


「……そう言われると、不思議じゃある。王さまが、冒険者の暴走におびえていたのは事実だと思うが……ラキアみたいな熱い護衛がいるのに。オレを、見過ごしたか。アドルフ・イェーガーというおじいちゃん、すこぶる評判悪いのにな」


「王さまも、知っているのかしら。レオンくんのおじいさんについて」


「……どうかな。知っていたら、さすがにギルド長にしてくれなかったような気もする」


「密偵は、黙っていたのね。墓を荒らしてまで、情報を集めたのに」


「いつ、荒したんだろう」


「私が予想するに、レオンくんが魔族を討ち取って、パーティーしてもらったときじゃないの?」


「王さまに、ち、近づいたから、調査されたのかも」


「目立つからな、魔族を討てた冒険者は、そう多いわけじゃないし……王城に招かれるなら、経歴ぐらい調べられるのかもしれないな」


「……さらっと、聞いてしまったが。レオンハルトは、暗殺者の孫なのか?」


「そうらしい。秘密の多いじいさんだし、詳細は不明だが。あまり口外されても得にはならん。言うなよ」


「わ、わかった。仲間は売らん」


 ロッドに釘を刺したころ、宿へと到着した。酒を飲んでいるエルミー・ブラネットと、ぐっすりと眠っているクレアを起こした。


 ニコレッタも、旅立つ準備をしていたから、ついでに王都へ向かうコトにしたよ。


『わかくして、おうじさまのひとりが!?』


『なくなるなんて……かわいそうです』


 アオとハルもすごくいい悪霊だったな。


「王子殿下が、亡くなられたのか……たしかに、病弱ではあられたが。年末お見かけしたときは、それなりに元気であったのに」


「……伯爵も言っていたな」


「人って、急に死ぬからね」


「女医が言うと、説得力のカタマリじゃある」


「暗殺とかうんぬんを考える方が、おかしな陰謀論者なのよ。病弱だったら、いつ死んでもおかしくないし。健康な人でも、いつ死ぬかわからない」


「近所の防具屋のおっさんも、いきなり死んだな」


「そうよ。モンスターや魔族以外にも、突然死のリスクって、いくらでもあるんだからね」


「あーしの、お師匠も。いーきなり死んだ」


「酒ね。エルミー、お酒を控えなさいな。体壊すだけじゃ、すまなくなるわよ」


「えー……無理」


「はあ。若死にした方を見たら、ちょっとは気にしたらいいのに」


「そうだな。クロウ・ネーモにも、言ってやろう」


 フラガーの街に寄って、サイコパス商人の家に向かう。伯爵からのクエストだ。

 オレたちの顔を見ると、サイコパスの顔面はしかめっ面になる。


「何だね?」


「エリアス王子が死んだ。知っているか?」


「もちろん。聞いているよ」


「伯爵からの伝言だ。暗殺されていないか、しっかりと記者に調べさせろ」


「……まあ、いいよ。やろうじゃないか。伯爵は、金払いがいい。記者が、密偵に捕まろうとも、私は痛くもかゆくもないしね」


「そういうところだぞ、さ、サイコパス商人っ」


「ああ。こんなオトナにならないようにな。飴玉やるから、帰りたまえ」


「帰ってやるが、オレは飴玉じゃ買収できん」


「十四才の、れ、レディーもだ。ばかにすんなだし」


「どうしろと?」


「新聞記者を、うちに呼んでくれ」


「取材されたいのかな?」


「違う。記者が密偵に殺されないようにだ。密偵ラキアとは、顔見知りだ。記者がマズい状況になったら、オレに忠告してくれるかもしれない。記者が、いきなり消えてもらっても困るだろ?」


「ふむ―――」


「―――困るって、言え。不愉快な発言には、拳で応じるかもしれんから」


「ああ。困るね。人は死なない方がいいよ。じゃあ、その手はずで。飴玉は?」


「いちおう、も、もらっておく!」


「風邪予防にいいから、全員分ね。若死にしたくないもの」



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