第四話 『国崩しの令嬢』 その33/猛禽の双眸


 多くの者がタカ派で名高くて、支配的な貴族という人物に抱くのは、どういう印象だろうか。『カワイイ』と対極の方向性で、考えればいいんじゃないかね。ポロロくんたちみたいなフワフワな生き物の、真逆に君臨している、恐ろしい捕食者だとか。


 オレも、そういう印象だったけれど。


 初対面の彼は、ちょっと違っていた。


「セレス!! セレスティアは無事なのか!?」


 泣きそうなほどに必死な顔だ。そうか。彼は娘を心配しまくっているが、それだけじゃない。ダーストリアの冒険者たちは、彼の息子を守れなかったんだからな。


 悲しくて、しかも忘れられもしない巨大な記憶が、追いかけてきちまったに違いない。誰しもがトラウマを抱えているものだけど、キッカケひとつで記憶が、鮮明によみがえっていく。「きっと、わすれられるよ……レオ」。ムリだな、ティナ・マクスウェル。


「伯爵、ご安心を! セレスは、無事ですから!」


「あ、ああ……マクシミリアン王子……殿下……っ」


 ややウェーブのかかった黒髪と、ワシのように鋭い目。五十代か六十代だと思うが、衰えを感じさせないしぼられて、鍛えられた肉体。狩猟好きの伯爵らしいと言うか、威厳と威圧と、畏怖を合わせ持つであろう男は、王子さまの言葉に安堵した。


 おそらく、オレたち冒険者の言葉では、彼は不安になるだけだろう。「きっと、彼の息子の護衛たちだった冒険者は、『大丈夫』と言っていたでしょうからね」。


 だから。


 ちょっと、サービスだ。


「馬車の事故が起きた。だが、王子殿下が身をていしてかばったんだ。彼女のアタマを抱きかかえ、自分の身を盾にしておられた」


「そ、そうだったのか。王子殿下、ありがとう……っ。よく、セレスを、私の娘を守ってくれたな」


「い、いえ。男として、当然の行いなので」


「それでも、ありがたい。娘を、嫁がせたくなるぞ」


「か、閣下」


「あ、ああ。今は……そうだな。娘に、会いたいが」


「まだ治療中ですので、しばし、お待ちを。大丈夫、腕のいい女医がついています」


「そう、だな。はあ……落ちつこう…………」


「店主、伯爵殿にお茶でも―――」


「―――いらん。この宿は……好かんのだ。気遣い、無用である」


 トラウマがあるらしい。この宿にいた冒険者たちが、彼の息子の護衛をしていたのかもしれないな。だとすれば、無理強いするのも酷か。店主があまりにもかわいそうだが、トラウマってのは、なかなか克服しがたい。


「……炎のような、赤毛。見慣れない男だな、お前も、冒険者か……」


「オレは、レオンハルト・ブレイディ。王命で設立されたばかりの、王立冒険者【再就職】支援ギルド。そのギルド長だ。よろしく、ベクトラ伯爵」


「……ふむ。くだんの、ギルドか」


「閣下。彼が、私とセレスティアを転倒した馬車から、助け出してくれたのです」


「……そう、か。その件については、深く感謝をしよう。ありがとう、レオンハルト・ブレイディよ」


「いいえ。冒険者として、当然のコトです」


「……冒険者として、か」


「ええ」


 きっと、好きじゃないだろう。オレたち冒険者の全員が。でも、彼がとくに嫌いなのは自分の街にいる冒険者たちだ。それ以外の土地の冒険者なら、私設軍の兵隊にして使う分には問題がないのかもしれん。


 下手すれば。


 復讐の代わりとして、いじめているかも。


「伯爵殿にも、ご協力願いたいのです。多くの冒険者たちが、現在、職に困っている。稼ぎがないのです。新しく生き直すための道や、冒険者としてのクエストがあるのであれば、どんな些細なものでも依頼していただきたい」


「……国王陛下の慈悲深いお考えには、私も大きな尊敬と、行動で応えるとしよう。冒険者に対して、雇用の門を開いてもいい」


 その発言に、周りの冒険者たちの半分が、「おお!」、「伯爵ありがとう!」と叫んでいたが、半分は不信感いっぱいの態度と視線をベクトラ伯爵に向けていた。


 正直なもんだ。


 態度というものはね。ベクトラ伯爵もだ。言葉とは裏腹に、目の鋭さが増している。見ているんだ。わかるよ、心を引き裂いた痛みからは、みんな目を背けられない。彼はモンスターに食われてしまった息子の遺体や、あるいは息子の最期の場となった空間に落ちていた遺品を見ている。


 許すはずもない。


 死者の持つ重みというものは絶対でね。どんなコトでも、変わらない程度には、その部分に対してはがんじがらめになるよ。


 だから。


 浮かれない。ワシのような目をする男は、とくに気をつけないと。指で、サインを送った。フロント職のブロックサインを。戦闘中に言葉を使わなくても、我々は連携できないといけない。そうじゃないと、知恵の利くモンスターや魔族に作戦を見破られてしまうからだ。ワシの目のような敵は、それを容易くしてくる。


 だから。


 王都の冒険者たち、前衛/フロント職専用のサインで、クレアとエルミーに指示を出した。鋭いワシの目が、ニコレッタ・クインシーを見つけないようにね。ふたりは素早く壁となり、ニコレッタを背中の裏に隠していた。警戒させる情報をあたえる意味はない。


 もちろん。


 オレも連携するよ。フロント職だからね! でも、今日は話術を使用する。


「ぶしつけな質問をするのですが、王子さまもお嬢さまも、そして伯爵殿ご自身の服装から察するに、何かしら重要なお歴々を集めて、パーティーでも開かれるご予定でもあるように思えるのですが」


「……ああ。その予定だが」


「オレも、お招きいただけませんかね。伯爵殿が招く方々なら、顔も広く、知識も豊かで、冒険者の再就職や新規クエストについて、建設的な意見を聞けるでしょうから」


「権力志向かな」


「いいえ。すべては、仲間である冒険者のために。オレが欲しいのは、仲間が全力を尽くせる、今とは異なる未来ですよ」


 おわかりだろう、伯爵よ。


 オレは、アホで、お人よしだろう。


 だから、ワシのような目で人を観察できる貴族なら、『利用しやすいカモ』だとか思ってくれるんじゃないかな。


「……ああ。良き態度だ。いいだろう。招くとしよう。レオンハルト・ブレイディ殿と、お連れの方々も」


 敵地に突入できるっぽいぜ。ああ、ワクワクするよ。冒険の始まりだな。



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