第14話 女性はみんな女優とか言いますよね。マジで怖いんですけど

 俺の日々は充実している。


 イチローと地球に降り立ってから、毎日メイドカフェ『からめるどりーむ』に通っている。このメイドカフェが本当に最高なんだ。

 最初はただの好奇心からだったが、今ではすっかり馴染んでしまった。


 常連となったこともあり、かすみちゃんとの距離も徐々に詰まってきた。

 ナミは『その女は止めておいたほうがいい』だなんて言ってたけど、やはり俺が正しかったらしい。


 そして、今日も俺は『からめるどりーむ』にやってきた。


「おかえりなさいませ、御主人様!」


「ただいま。かすみちゃん、今日もかわいいね」


「ありがとうございます。嬉しいです」


 こんなやりとりも自然にできるようになった。

 もう、ほとんど付き合ってるみたいなもんだろう?


「あれっ、でもなんだか浮かない顔をしているね。何か悩みでもあるの?」


 俺くらいになると、ちょっとした違いも見逃さないのさ。


「はい、実はちょっと悩んでいることがあるんです」


「俺で良ければ相談に乗るよ」


「えっ、いいんですか! とても助かります。では、仕事のあとでお付き合いいただけますか?」


 ついにキター!

 これは……かなり脈ありということじゃないだろうか。よし、今夜は勝負だな。


 ――


 かすみちゃんの仕事終わりまで待ち、俺たちは2人きりで町を歩いている。少し緊張しながらも、心地よい静けさが流れる。

 いつの間にか、かすみちゃんは俺の腕にしがみついているし、相当いい雰囲気なのは間違いないだろう。


「かすみちゃん、悩みを聞かせてもらえるかな」


「もう少し、このままでいさせて……」


 おいおい、やっぱり俺に惚れてるじゃないか。

 よし、今がチャンスだ!


 そう思った瞬間だった。


「きゃあ!」


 後を振り返ったかすみちゃんが、大声をあげて俺の後に隠れた。

 かすみちゃんが驚いた方を見ると、そこには見知らぬ男が立っていた。


「かすみちゃん……その男は誰? 俺という人がいるのに、どういうことなの?」


 その男はブツブツと呟きながら、こちらに向かってゆっくりと近づいてくる。まるで、何かに取り憑かれたかのような表情をしていた。

 手には……刃物が握られている!


「カトー様、怖いです。助けて!」


 かすみちゃんが小声で俺にそう言った。


「分かった。ここから動くなよ」


 男が俺に向かって突進してきたが、俺の蹴りが手に持っていた刃物に命中した。

 痛みでたまらず倒れ込んだ男を、俺は取り押さえた。


 普段からサクラと戦闘訓練をしている俺にとっては、このような男など相手にもならない。

 だが、かすみちゃんは普通の女の子だ。きっと怖かっただろう。


 そう思って、かすみちゃんの方を見たら、意外にも冷静に電話をしていた。やがて警察が駆けつけ、男は連行された。

 俺とかすみちゃんが警察に状況を説明していたとき、別の男が現れた。


「えり! 大丈夫だったか!」


「うん、大丈夫。カトーさんが助けてくれたから」


 ん? えり?


「ああ、この前話してた強そうな人だね。カトーさん、えりを助けてくれてありがとうございました」


 その男は俺にそう言って頭を下げた。

 これは一体、どういうことなんだ?


「かすみちゃん、この人は?」


「私の彼氏です。あとね、私の本名はえりなの。かすみは仕事上の名前ね」


「そうなんだ……。まあ、無事で良かったよな」


 なるほど、俺はボディガードとして利用されたってことか。強さを見せつけたから、なんとなく感謝された気がしてたけど、結局はそれだけか。

 そういえば、元軍人だと話した瞬間から急に親密な感じになったような気がする。

 イチローよりモテた気がしてたけど、単にイチローより強いと思われてただけだったのか……。


 くそう、告白する前に振られてしまうとはな……。


 悔しいが、ナミの言ったとおりだった。

 女性のことは女性に聞くのが間違いないのかもしれないな。


 俺は事情聴取が終わったあと、一人で寂しく帰還した。


 ――


「カトー氏、おかえり」


「おかえり~」


 俺が帰還したとき、転送室でイチローとナミがカードゲームで遊んでいた。

 それにしてもさ、今は『おかえり』の『えり』の部分が強調されて心に刺さる。


「かすみちゃんとは上手くいった?」


 イチロー、何も考えずに聞くんじゃない。

 俺の顔を見れば分かるだろ。


「いや、ダメだった。悔しいけど、ナミの言った通りの結果になった。ナミ、笑っちゃうだろ?」


「笑うわけないじゃん。カトリンは本気で好きだったんでしょ? それのどこに笑う要素があんのよ?」


 ナミの意外な言葉に、不覚にも俺の頬に涙が伝った。


「笑ってもいいんだぜ。ナミの忠告をちゃんと聞いていれば……こんなことにはならなかったんだ」


「ウチはさ、まだ誰かに恋したことなんてないから、お前の気持ちは分からないけど、どんな結果でも胸を張っていい説あるよ」


「ナミ氏の言う通りかもね。失恋だって、きっと長い人生の中で意味のあることだと思うよ。そういう失敗を通して人は大きくなるって、誰かが言ってたよ」


 イチロー、誰かって誰だよ……。相変わらず適当だよな。

 でも、今の俺にはこれくらいが丁度いい。


「お前ら……あったけえな。まさか、こんな時に温かい言葉をかけられるとは思わなかった。そうだ、気分転換に俺も入れてくれよ」


「あ、これは二人用なんだよ。残念だったな」


 えっ、さっきまでの温かい雰囲気はどこにいったの?

 普通、入れてくれる流れだろ!

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