はじけろ!コーラ星人 ~残念宇宙人が地球にやってきた~

第1話 別に呼んでないけど、帰ってきたらしい

「我々は3年待ったのだ! 星の塵作戦成就のため、地球よ! 私は帰ってきた!」


 作戦会議室のカウンターの前で、意味不明な演説を繰り広げているのはコードネーム:カトー氏だ。

 どこかの惑星に行くとき、必ずこれをやるんだよな。誰も聞いてないのに。

 それでも本人は満足げな様子で、微妙に力の入ったポーズを決めている。


 何の意味があるのかは誰も知らないのだが、これが始まると『いよいよ上陸だな』という雰囲気になるから、慣れって怖いなと思う。

 カトー氏は軍の特殊部隊に所属していたらしい。その名残か何かなのだろう。


「カトー、またやってる……。別に3年待ってないし、あれさえ無ければいい奴なんだけどね」


 遠目で見ながら悪態をついているのが、コードネーム:サクラ氏。

 彼女はカトー氏と共に戦闘を担当している。

 カトー氏は射撃が得意なのだが、サクラ氏は近接戦闘の達人だ。

 すごい美人なのに、大食い、大酒飲み、毒舌という豪快な人だ。


「それな~。カトリン、うるさいからやめろし」


 サクラ氏の横で文句を言っているのは、コードネーム:ナミ氏。

 現在、俺たちが乗っている宇宙船を作り上げたのは彼女だ。

 俺より若いのに、機械いじりが得意という才能の持ち主だ。

 器用で頭が良いのだが、話し方が特殊すぎるので、ときどき何を言っているのか分からないことがある。


「は~い、そろそろ会議を始めるから全員着席な」


 そう言いながら、作戦会議室に入ってきたのは、コードネーム:ボス氏。

 ボス氏はカトー氏と同じく軍に所属していたが、階級は司令長官だったらしい。

 その経験を買われて、俺たち7人のリーダーをやっている。

 ハゲ頭で悪人顔なので、そのことをサクラ氏にいじられがちだ。

 目つきの悪さを隠すためにサングラスを着用していることが多いのだが、怖さが倍増することに本人は気付いていないようだ。


 俺たちが円卓に着席すると、医者のコードネーム:ナカマツ氏が前回の惑星での成果を報告した。


「大変残念ですが、惑星ラッカで収集した物質はいずれも『特効薬』ではありませんでした。手がかりが掴めていないという状況に変わりはありません」


 俺たち7人は『特効薬』を求めて、宇宙を旅している。

 これまでいくつもの惑星を訪れては『特効薬』を探しているが、手がかりすら掴めていない。


 ナカマツ氏は医者であり、『特効薬』の研究をメインで担当している。

 高齢ではあるが、俺たちの中で最も筋骨隆々なので、カトー氏がしばしば羨むほどだ。

 俺は……別にどうでもいいや。


「でも、今回はいい報告もあるんだ。ハカセ、ナミ、例の話を」


 ボス氏に指名されて、コードネーム:ハカセが立ち上がる。

 ハカセは俺たち7人の中で最年少、12歳の少女だ。

 だが、彼女は凄まじい努力で、物理学者並の知識を身に着けた。

 この宇宙船の設計も担当しており、ハカセが設計してナミが作り上げるという、若い女子コンビのテクノロジーが俺たちを支えている。


「懸案となっていた、物質転送装置がついに完成しました。理論はワープ航法に使っているものと同じだけど、小型化が課題でした。ナミと設計から見直したことで実現に成功しました」


 そう言って、ハカセがドヤ顔をすると、作戦会議室は拍手に包まれた。

 彼女はすぐに調子に乗るのが悪い癖だ。あと、たまに変な暴走をする。

 かわいい少女だからって、みんなが甘やかしすぎるせいじゃないだろうか。


「そんで、転送実験を兼ねて地球に偵察用小型機を10機送り込んだんだけどさ、なんと!そのうち9機が無事に稼働してるっぽい」


 ナ、ナミ氏……。

 残りの1機は一体どこに?


「ん、残りの1機?。宇宙空間でバラバラにでもなってんじゃね」


「ちょっと、ナミ……。その話は内緒って言ったでしょ!」


「そうだっけか。イッチ、安心しろし。成功率は9割もあるじゃん」


 ちょ……マジか?

 俺、コードネーム:イチローは、この船の雑務全般を担当している。

 俺は他のメンバーと違って得意分野がないので、惑星の調査任務で最初に上陸することとなっているのだ。

 つまり、未知の惑星で最初に危険に晒される役目を担っているということだ。それでも、俺にできることがあると思うと、不思議と悪い気はしない。


「イチロー、大丈夫だからね! 理論的には完璧なんだよ。失敗したのは、ほ~んの少しパラメータを間違えただけだから……」


「……」


 いや、ハカセ……。

 全然笑えないよ。


「ハカセちん、それフォローになってない説」


「あわわ……。どうしよう」


「それはそうとして、どの辺りに上陸するの?」


 サクラ氏、『それはそうとして』じゃないでしょ。

 命がかかってるんだから……。

 俺はそう言おうと思ったのだけど、サクラ氏がハカセの肩をポンと叩くと、ハカセの顔色が戻った。


 あ、なるほど。

 サクラ氏はハカセをフォローしたのか。


「上陸地点は、日本国東京都の秋葉原という所だ。地球の風習で、『目的地のない旅に出るときはダーツで決める』というものがあるらしいので、今回はダーツで決めてみたんだ。観光地として有名な場所らしいから、よほどのことをしない限り目立つことはないだろう」


 ずいぶんと不思議な風習があるものだ。

 日本という国は退屈しない、素晴らしい国かもしれない。


「ちょっと待って。ってことは、全身真っ黒の服しか持ってないイッチのクソコーデでも怪しまれないってことじゃん。なにげ凄くない?」


「……」


「ナミ、さすがにそれは言いすぎだよ。きっと地球にだって、変なファッションの人がいるんじゃないかな……」


 くそう、ナミ氏とハカセ……。

 いつか覚えてろよ。


「そこまで言うなら、秋葉原でカッコいい服でも買ってこようじゃないか! カッコよすぎて腰を抜かしても知らないからな」


「ハカセちん、イッチが転送装置使ってくれるってさ、良かったじゃん」


「イチロー、ありがとう。ちゃんと調整するから心配しないでね。3日あれば大丈夫だから」


 しまった……まんまとハメられたようだ。

 だが、俺が断れるわけもない。俺たちはチームであり、誰かがこの役を引き受けなければならないのだ。


「ハカセ、信じてるよ。ハカセが今まで俺に嘘をついたことなんて無かったからね」


 こうして、地球への転送は3日後に決まった。

 まあ、覚悟を決めるしかないか。

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