『おそろしい魔法』
「ってわけでまた……なんですよイシュトアン様」
「よい、おぬしも大概頼られる方の心境というものを理解できたであろう」
「あー、まあ……」
深くうなずいてアゴヒゲ撫でてるけど、これはたぶん頼られるうれしさとしんどさ込みの話だな……
なんで表現力がそんだけあるんだよ他人に興味ねえのが魔族なのに!?
イレギュラーなのは私もこの人もだからだね。
「はい!はい!イシュトアン様にリクエストあります!」
「ミスラ、お前は今はちょっと遠慮しような?」
「私の死人兵にすごい武器を持たせてほしいです!すごい武器があれば死人兵の数でとりあえず防衛できるわ!」
それ言っちゃうか~!って顔で私とイシュトアン様は顔を見合わせた。
なお、ここはイシュトアン様が街はずれに構えた『庵』だ。
庵としか言いようがねえんだよ……
ママの話に聞く『故郷』か旧大陸の
教養がありすぎるだろ。なんで地の果てほどの距離ある国の文化知ってんだよ。
「あ~、それ言っちゃう……?できるだろうけど、できるだろうけどさあ……それを聞いた以上、お前はお前の魔法の『完成形』を知ることになるけどいいの?」
「あっ」
魔族にとって自分だけの『固有魔法』は一生をかけて研究し極めつくすいわば趣味であり、生きがいだ。だから『ネタバレ』は厳禁となる。
はたから見たらバカみたいな欠点があってもそれは本人がいつか気づくべきことであり、他人が『正解』を教えるのはすごい失礼を超えて魂の殺人に近い。
ちなみにイシュトアン様は『魔弾』で世界最初に魔法を『完成』させたお人であり、すでにいくつも『完成』させちゃっている魔法開発の達人だ。
「なし!今のなしでおねがい!」
「だろ?ってわけで汎用魔法か人間の魔法の改良か、魔道具作るしかないんだわ」
「ふむ、ならば何を注文する?言うてみれば案外するりと片付くかもしれん」
タタミの部屋は慣れないだろうからってわざわざ清香風のテーブルとティータイムセット用意してくれるんだから気遣いの達人だよね。
茶がうめえ……
「そっすね……五百歩くらいの距離に一秒以内に二十発は弾丸をお届けできてですね、薄めの鉄板とかそんじょそこらの魔力結界ならぶち破れるくらいの威力があるやつ……ですかね」
おおむね、『ママ』とか『博士』から聞いた『あっち』の武器の仕様だ。
こんなんが飛び交う『あっち』の戦争怖すぎだろ!
魔法は『魔弾』でもそんな連射できねえし、そんな距離で撃ち合うこともまあないんだわ。
「ふむ……要点は『連射性』と『距離』か」
「ですね。『威力』は連射することで少しづつ相手の防御を壊します」
「あらば『距離』と『威力』は別の魔法を用意するとして……一秒に百発、百歩以内ならば問題ない」
「できるんすか!?兵に教えなきゃいけないから簡単な術式なのはわかりますよね?」
「無論よ」
いやできるのかよ!?一秒に百発ってことは分で六千発飛んでくるんだよ!?
威力が投石だとしても、どんなものでも粉々になるわ!
「おぬしの『ロックシューター』。あれはよくできておる。単純でありながら拡張性が極めて高い。おそらくは使い手に合わせて調整するのを前提とした粗さ……しかしながら、実用には十分。人間の合理の極みよな。もはや殺意すらないのだろう。しかし、ただ殺すために実用を磨き続けた。そういったものだあれは」
あ。ほんとだ、これそういう術式だわ。人間の殺意ってこええよ……
なんなんだよ殺す気はないけどただひたすら殺したかったって!
それは魔族の専門のはずだろ!?
それをただ狂的な努力でたどり着くから人間は敵に回したくねえんだよ!
「少し試してみようぞ。たしかこれがこうで…こうか」
イシュトアン様が手の上で魔力をいじりまわしたらなんか別物みたいな『ロックシューター』が出て庭の岩を砂にした。
砂になったんだよ……小山くらいの岩が。無数の小石ぶつけまくったら。
うーわっ、人間用の魔法を魔族の中でも天才が使ったらこうなんのね……
「速度さえあれば岩でなく小石で十分。形状は空気抵抗を考え流線形に、弾道は矢の如くひねりを加え……まあこんなものであろう。術式は……ふむ、やはり紙一枚に収まる。これも一つの『完成』だな」
「見せてもらっていいすかその術式」
「お主の頼みで作ったものだ。見るがよい」
うーわっ、マジで覚え方から使い方まで一ページに収まってるよ……
『完成』しちゃった魔法って無駄がなくなってそのくらいにまとまるんだよね。
これ人間だと習得に一〇年はかかるだろうけど、魔族なら三日でできるわ。
魔法に最適化した脳をもつ種族だからね。
私は何を作ってほしいと頼んだのか理解して、改めておそろしくなった。
一体これで何人が死ぬのだろう。何億人が死ぬんだろう。
「すごいわね!これがあれば魔王国の魔族が何人襲ってきても安心だわ!セレナっていうのだってさすがにこれで死ぬわよね!」
「あいつが正面から来てくれるんならな」
「してどうする?イブキよ。広めるのか?これを」
イシュトアン様は試すように私を見てくる。
試してるんだろうな~覚悟ってやつを……
もうすでに後戻り出来る場所じゃねえし、戻る気も投げだす気もない。
じゃあ勝つためにやるしかねえな~
「やりましょう。広めましょう。この『おそろしい魔法』を」
「『おそろしい魔法』か。良き名だが……おそらくはおぬしとワシが組んで敵にセレナがいる限り、そう名付けたい魔法はまだまだ増えような」
「ですよねえ……名前かあ……『ピースメーカー』そう、名付けます」
イシュトアン様は悲しそうに笑った。
「カカッ、皮肉な名か。あるいは祈りか……まあ、よかろう。好きに使うといい」
「ありがとうございます。そして、すんません。私の業に巻き込んで……いや、あやまるべきじゃないですね」
「うむ、ワシは『こう』なるとわかってお主と組んだ。ゆえにそれでよいのよ」
「はい……」
ミスラはニコニコしながら無邪気に『ピースメイカー』を読んでる。
それがどんな『結果』をもたらすかとか気にしないんだろうなあ……
「すごいわねこの魔法!ねえイシュトアン様、謝礼は払いますからもっとこういう面白い魔法作りましょうよ!」
「は~、おめえなあ……いや、作るだけは作るべきだし、作るときはどうせなら楽しくやらなきゃな……」
「ククッ、それでよい。為すべきをなすのだ」
やるべき事はやらなきゃいけねえからな……
たとえそれで死体が文字通り山になってもだ。
なぜなら私はスターステイツ大統領だからだ。
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