『祈りの石』は不幸で輝く。

霜花 桔梗

第1話 ソシャゲーで友達

 私の名前は『長井 みつな』で、私立の女子校の中等部に通っている。ソシャゲーの『絶対正義』にはまり、体調を崩して保健室登校になってしまったのだ。


 しかし、実に考え深いのは、この女子校内ですれ違い通信で反応があったプレイヤーである。それは私よりレベルの高いプレイヤーがいたからだ。私がこれだけ廃プレイをしても勝てない相手に興味があった。


「みつなさん、現実の世界でもお友達を作りましょうね」


 保健の先生が優しく難題を言う。私の黒髪は長く日本人形の様である。皆、不気味がって近づかない私に友達?


 保健の先生が時計を見ると……。


 薄いブラウンの髪であり。そこそこ、美人の女子が入ってくる。


 胸元のリボンの色から高等部二年生である。


 私が警戒していると。


「目つきが悪いなー。でも、今日からフレンドよ」


 初対面で目つきが悪いとか普通言うか?色々、自己紹介をするが、この私以上のコミ障害である事を感じた。


 名前は『戸田 真由美』と言うらしい。


「和服を着せたら、動き出しそうね」


……。


 一番気にしている事である。ゲームの世界に入れたら、こもりたい気分であった。


 そして、真由美は私の成長の止まった胸を見て……。


「よし、合格、親友の誕生アル」


 確かに真由美は普通より小さめである。私と比べれば大きいのかもしれない。レベルの低い戦いであった。


 保健の先生がお茶を出してくれたがコミュニケーションの限界を感じて、私は絶対正義にインする。


 私はソロに向いた弓使いである。


「へえー私と同じゲームをしているのか」


 真由美はスマホを取り出して絶対正義にインする。少し見ると、私よりレベルが高い。まさか、このコミ障害がすれ違い通信で出会った人らしい。


 これが真由美との出会いであった。


 私が真由美に会った、その日の夜の事である。自室で椅子に座り絶対正義をプレイしている時である。


 ふと、気づくと、小さな少女が私のベッドの上に座っている。


 私は幼い頃に肺の病気を抱えていた。ある夜に病室から外を眺めていると、魔女のアイが現れたのであった。


「幼くして死のふちにある君と契約したい」


 私の心は少女のアイを拒まなかった。


「この『祈りの石』は不幸を吸い取る。簡単に言えば月明りの様に君の不幸で輝く石だ」


 そう、アイは魔女で死神ではなかった。アイは不幸な少女のエネルギーが必要らしい。


 そして、私は契約して『祈りの石』に光を灯すのであった。


 私の体は良くなり退院することができた。


 それは『祈りの石』と共に生きる事を意味していた。時が流れて。


 今、アイが目の前にいる。アイは私の人生の転機に現れる傾向にある。


 父親が体の弱かった私を心配して私立の女子校に入学させられた時も現れた。


「『祈りの石』は輝いているわ。私は契約以上の事はしているつもりよ」


 私が机の引き出しから『祈りの石』を取り出すと紅く輝いていた。


 アイは『祈りの石』を手にすると口づけをする。


「幸福を感じるわ。あなた友達でもできたの?」


 アイの問いに私は目を剃らす。


「今の時代は心のケアが充実しているの。似たような境遇ある人が友達になるのは不思議ではないわ」

「魔女にとっては生きづらいわね」


 皮肉なのか本気なのか判断に困る言葉であった。


 すると、スマホが鳴り電話がかかってくる。


 真由美だ。


 今の時代にいきなり電話で会話かよ。普通、メッセージの交換から始まるだろうに……。


 私が戸惑っているとアイの姿が消えていた。アイは、きっと、また、現れる……。


 私は真由美と会話の後、電話を切りベッドに横になる。手鏡を見ると日本人形のような顔が映る。


 友達か……。


 朝の事である。私は『南風女子学園』の中等部に登校する。


 と、言っても保健室登校である。


 保健室の扉を開けると真由美が待っていた。


「絶対正義のログインイベントしよう」


 私達はスマホを近づけて遊ぶ。保健の先生が戻ってくると、真由美は『じゃ』と言って去って行く。


 私は少し嬉しかった。友達も悪くないな……。


 さて、一限の時間だ。


 この学園には保健室登校専用の教材がある。


 私が勉強を始めると、遅れて美亜ちゃんが入ってくる。


 美亜ちゃんはこの保健室登校の仲間だ。


「お、お、お……」


言葉に詰まっている美亜ちゃんに私から挨拶をする。


「おはよう」


 美亜ちゃんは極度のあがり症で朝の挨拶も大変そうである。


「さ、美亜ちゃんもお勉強しましょうね」


 保健の先生が美亜ちゃんに声をかける。


「私は……私は……」


 ブツブツと呟いているが美亜ちゃんは教材を取り出す。


 二人で静かに勉強をしていると。美亜ちゃんの担任が入ってくる。どうやら、こないだ行った心理テストに問題が見つかったようだ。


 ひそひそ話は美亜ちゃんの退学処分の話らしい。


 私は大丈夫、大丈夫と心を落ち着かせる。


 うん?


 鞄の中の『祈りの石』が輝きを増している。


 私の不幸で輝き……そして、魔女の糧となる石か……。


 右手が疼く。


 無力、無力、無力……。


 私は拳がボロボロになるまで冷蔵庫を殴った記憶がある。あの時の気持ちに近い。


 幼い頃の思い出である。私は大きな病院に検査入院をしていた。


 隣の部屋の男の子は私より一つ年上であった。


 一週間ほどの検査入院でも仲良くなり、恋心が芽生えていた。


 私が退院して三週間後に再び彼に会いに行った。彼の部屋に入ると、がらんとしていた。


 退院したのかと聞くと天国に旅立ったと言われた。


 私はその夜に自宅の冷蔵庫を殴っていた。それは絶対的な無力であった。腫れあがった拳を見て親は直ぐに病院に連れて行ってくれた。


 冷蔵庫を殴っていた左手を治療して軽い安定剤を飲んだ。


 魔女の噂を聞いたのはそんな時である。


 きっと、今考えれば魔女の方から私に近づいてきたのであろう。


 私は微睡の中で朝日を浴びる。昔の記憶か……。


 私はため息を吐き保健室登校の準備をする。真由美から夜中に着信があった事に気付く。


 何事かとメッセージを送ると……。


『レットブックのダンジョンを見つけたよ』と返ってきた。


 絶対正義の最後の試練と呼ばれるダンジョンだ。私達は早朝の保健室で会う事にした。


 私は人生について考える。


 魔女のアイとの契約で私は生きている。きっと、これから先に対価をもっと払う事になるだろう。


 私は今の真由美との関係を大事にしようと思うのであった。

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