生き残りノート
木全伸治
生き残りノート
私たちは本当に仲の良いグループだった。
私が仲間を裏切って、自分だけ生き残ろうとするまでは、ホラー映画の愚かな登場人物たちのように罵り合ったりせず、冷静で、理性的に行動していた。しかも、私がわが身かわいさで、自分勝手なことを始めても、それは私の一時的な気の迷いで、きっと落ち着いて思いとどまってくれると信じてみな私に殺されていった。
彼らは、大学で、自然に気の合うやつらが集まってできた友人たちだった。極限状態だったが、本当に、みな協力し合って、その村の唯一の生存者だという子供が書き残したノートを真剣に探していた。私も、そのノートを見つけるまで、全員で協力し合ってみなで助かるつもりでいた。
そのノートには、この呪われた村からの脱出方法が書き込まれているはずだった。だから、みなで、必死になって探して回っていた。何軒か人が生活してた名残りを残す廃屋に入り、家探しをした。缶詰を見つけるときもあったが、錆びだらけで、異様に膨らんでいるいかにも開けたらやばそうなものしか見つからなかった。
私は、他のみんなに提案してみた。
「ね、そんなあるかどうかも分からない噂だけのノートを探すより、他の脱出方法を探した方が良くない?」
「ただの噂でも、他に手掛かりがないんじゃ、しょうがないだろ。噂にすがって何が悪い」
食料が乏しく、さすがにみな徐々に苛立ち始めていた。この村から出られなくなって、もう一週間近くになる。水は村に小川が流れているので大丈夫だったが、村の畑跡に残っていたわずかな野菜だけでは生存するには不十分だった。
しかも、スマフォの繋がらないど田舎である。食料も乏しく、外界とコンタクトが取れないのだ。イラつくなという方が無理がある。
「もう一度、この村の噂を整理してみよう」
「ああ、カリカリしててもしょうがないしな。ここは落ち着いて状況を整理した方が利口か」
ホラー映画のパターンでは、登場人物たちがパニクって、自分たちで事態を悪化させるのが、常だが、私たちは、まだ冷静になろうとする理性があった。だいたい、私たちがホラー映画の真似をする理由もない。
「ええと、老人ホームでバイトしているときに武藤さんというじいさんに、この村の噂を聞いて、この村の呪いや、唯一の生き残りの子供が脱出方法を書いたノートを自宅に置いてきたと聞いてネットで調べてみたら、それらしい廃村が見つかって、卒論のテーマにと思って来てみたら、本当に村から出れなくて、今俺たちは、脱出方法が書かれているというそのノートを必死で探してる状況で、いいよな」
「ええ、そう」
「その噂のノートが実在しなかった場合、今の俺たちの行動は無意味ということになる」
「誰か、ここに来ることを家族に伝えた人はいない? いたら、家族が警察に連絡してくれてるかも」
「いや、俺は誰にも言ってない。日帰りのつもりだったし」
「私も」
「俺も、家族に話してない」
「そっか、誰も家族に話していないのね」
「ますます、噂のノートにすがるしかないのか」
「・・・ウッ」
私は先ほどの廃屋で見つけた鎌で仲間の一人の首を刺した」
錆びてはいたが、殺傷能力は十分にあったようだ。他の仲間たちが、信じられないものを見るように私を見ていた。
「お、おい、何やってるんだ・・・」
「さっき見つけたこのノートに書いてあったの、荒魂を鎮めた者ひとりだけが助かるって・・・、だから、あなたたちは邪魔なの・・・」
私は背中に隠していたノートをみんなに見せた。
「おい、お前、そのノート・・・本気で一人だけ助かるつもりか!」
「だって、しょうがないじゃない、このノートに一人しか助からないって書いてあるんだもの」
「おい、バカなまねはよせ、俺たち友達だろ」
仲間を裏切るようにその村の呪いにそそのかされたかもと思ったのは、自分だけが助かり、仲間のご両親に自分たちの子供はどこと詰め寄られたときだった。
生き残りノート 木全伸治 @kimata6518
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