魔王城でTASUKEて
ちびまるフォイ
魔王城アスレチック:Rモード
「して側近よ。魔王城の首尾はどうか?」
「完璧でございます魔王様。
どんな勇者でもここに到着することなどできないでしょう」
「さすがだな。どんな強力な魔物を用意したのだ?」
「いいえ、魔物は維持費かかるので辞めました」
「え? 魔物じゃないの?」
「はい。なのでアスレチックにしました」
側近は魔王城周辺の映像に切り替えた。
そこでは屈強な勇者や冒険者たちが、
さまざまなアスレチックに挑んでは沼地に沈んでいた。
『あーーっと!! ここでゼッケン30番!
戦士の営業が!! そそり立つ床に弾かれたーー!!』
『ゼッケン45番、ギルドの受付代表。
最近は結婚をし守るべきものが増えました。
見せてくれるのか……あーー! ジャンプ失敗!!!』
魔王城のアスレチックを越えようとする人たちと、
それを熱く実況している映像が流れていた。
「……ね? 誰もここには来れないでしょう?」
「思ってたのとちがーーう!!」
魔王は思わず地団駄ふんだ。
「え、なにやってくれてんの!?
魔王城がちょっとした健康施設になってるじゃないか!」
「失礼ですよ魔王様。未だにサードステージを
クリアできた人はいないほどの難関なんです。
健康施設なんていうお遊びじゃないです」
「そういう問題じゃなくて!!」
映像では魔王城のアスレチックに果敢に挑む、
筋肉モリモリマッチョメンの冒険者が列をなしている。
「仮に、ここまでたどり着いたら
魔王である俺はこんなバケモノと戦うの……?」
「大丈夫です、魔王様。
ファイナルステージまではそうたどり着けません」
「魔王のことファイナルステージって呼ばれてるの!?」
魔王は玉座から飛び上がった。
「側近くん……。なんていうか、もっと……。
殺傷能力のあるトラップにできなかったの?」
「というと?」
「床が抜けて剣山に落ちるとか。
壁が迫ってきて冒険者をすりつぶすとか」
「さ、さすが魔王様……よくもそんなことを……」
「いやドン引きしないで。君も魔族でしょうよ」
「しかし魔王様。お言葉を返すようですが、
生きて返すことに意味があるんですよ」
「そ、そうなの……?」
「人間というのは希望が絶たれた瞬間が
もっとも絶望に近い状態だと言います」
「うん……」
「努力を積み重ねた結果にくじかれる。
それこそがもっとも人間を絶望させる恐怖の象徴となり
生きて返すことでその名声が広がるのですよ!」
「それを行うのは俺じゃなくて、
アスレチックだから問題だって言ってるんじゃんーー!!」
魔王の叫びは側近に「何いってんだこいつ」という顔をさせるだけで、
その溝を埋めるにはとうてい至らなかった。
魔族の寿命は長い。
魔王の世代と側近のS世代とは価値観も違うのだ。
『さあ、ここで……冒険者100番。
鋼鉄の魔城のクリフを……超えたーー!!!』
「あ、あれ?」
映像を見ていた魔王が冷や汗を流し始める。
「魔王様どうしたんですか? 応援したくなりました?」
「いやちがう。これサード・ステージ突破できそうじゃない?」
「いいやまだまだ。この先にあるバーティカル・デモンズ。
ここを超えた冒険者はいません。
回転する足場に回る支柱、そしてときたま放たれる笑いが……」
「じゃなくて! 超えられたらって話だよ!!」
「まあファイナルになるでしょうね」
「いやこの人むっちゃ強そうだよ!?」
映像に出ているファイナリストの体は、
もはや勇者や冒険者にとどめておくにはもったいないほど仕上がっていた。
伝説の剣で攻撃するよりも、上腕二頭筋から繰り出されるパンチのが強そうまである。
魔法に頼り切っていた魔族にとって天敵の物理特化。
「こんなのに勝てる自信ない……」
「大丈夫です魔王さま。バーティカル・デモンズを信じましょう」
「なんでちょっとクリアできそうな仕組みにしたんだよぉ!」
「理不尽な難易度は心を砕くだけで、
いい塩梅にしないと冒険者が絶望してくれないですから」
魔王と側近は映像を食い入るように見つめる。
冒険者を応援する地元の人達。
家族の活躍を祈るように見守る人。
近くを通りかかった犬。
成功してほしい。
失敗してほしい。
その違いはあれど。
冒険者が最後のアスレチックに挑む姿をただ見守った。
『さあ、最後の関門バーティカル・デモンズ!!
幾度となく進行を阻んだこの関門……!』
冒険者が筋肉をほとばしらせてアスレチックに手をかける。
『どうだ!! どうだ!! どうだーー!?』
ぐんぐん進む。
すでに数多の関門を乗り越えて腕に溜まった乳酸。
疲労を応援で打ち消し、指に力をかけて進む。
『指をかけた!! バーティカル・デモンズ!!
そして、そしてっ……!!』
『ああーーーー!! ここで落下!!!
指は!! 最後の指が!! 夢とともに外れてしまったぁーーー!!!』
映像を見ていた魔王は立ち上がった。
「よーーーっしゃぁあぁああ!!!!」
「やりましたね、魔王様!!」
「あーーーっぶねぇぇぇぇぇ!! もう少しで突破されそうだった!!」
食い入るように魔王ですら見てしまった。
それだけ人が努力する姿は人間も魔族をも釘付けにするのだろう。
「ともかく、これで今年の冒険者もファイナル出場ならずですね」
「よかったよかった。こっちに来られたらどうしようかと思った」
「魔王様、ぜんぜん鍛えてないからワンパンでやられそうですしね」
「魔法主体なの!!」
それでも魔王は安心していた。
「これで冒険者もだいぶ絶望したんじゃないかな」
「ええ間違いないでしょう。
自宅に魔王城のセットを組んで挑んでもなお
この魔王城の突破には至らなかったんですから」
「人間すごいな……」
「どうしますか魔王様。人間たちは失意に暮れています。
まさに今が世界征服の好機といえるでしょう」
「クックック。そのようだな。
ようし近くの町に行って、玄関の前にめっちゃ犬のうんち置いていくか」
「さすが魔王様。なんて恐ろしいことを!」
「ゆくぞ!! 人間どもに魔族の脅威を教えてやるのだーー!!」
魔王様はついに玉座から立ち上がった。
そして、ファイナルステージの大扉を開ける。
待っていたのはもちろん。
サードステージの関門「バーティカル・デモンズ」。
魔王様は言葉を失った。
「あの……これは……?」
「魔王城への道のりをアスレチックにしたので、
当然、人里に降りるためにはここ通らなくちゃですね」
側近はさも当然であるように告げた。
そしてーー。
『あーーーっと!! 魔王!!
指が離れ早々に沼地に沈んだーー!!』
魔王城でTASUKEて ちびまるフォイ @firestorage
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