第7話
痛い痛い痛い、苦しい。
真夏の密室みたいな暑さを感じたかと思えば
次の瞬間真冬の早朝みたいな冷たさを感じる。
嫌な汗が止まらない。
全身に針を刺してるような鋭い痛み。
「ぅ、ぐ......ッ」
呻いたって、楽にはならない。
ARでの面接後、タイミングを見計らったように体調を崩した。近頃色々ありすぎて気付かぬうちにキャパを超えていたらしい。
横になっているのにぐらぐらと揺れているような気がする。
脳みそひっくり返されるような気持ち悪さ。
揺れているのは地面なのか、俺の身体なのか。
どこかに飛ばされてしまいそうで。
縋りたい一心で布団を強く掴んだ。
(大丈夫、大丈夫、ゾーンには入ってないはず)
自分に強く言い聞かせる。
ちょっと体調が悪いだけ。
少し横になっていれば楽になる。
自分の荒い呼吸音が耳に入る。
ふと目を開ければ何もない暗い部屋。
......ふと、俺みたいだと思った。
今まで生きてきて、得たものなんて何もない。
ただ漫然と、波に流されるクラゲみたいに生きてきた。
持ってきたものなんて無い。
ひとつの町に、長くとどまれない。
数年おきに街と町を転々としながらここに流れついた。
同じ人間と、長く近くにいすぎると感情以外も読み取れるようになってしまう。
それは、記憶だったり、思考だったり。
相手を『読み取る』精度が上がってしまうのだと、俺は解釈してる。
他人の記憶も思考も、進んで読みたいものではないし
......相手もきっと嫌だろう。
引っ越すごとに他人との繋がりを全て絶ってきた。
連絡先も消し、その場所を離れるときには誰にも告げない。
こうして、寄る辺もない海に流され続けるクラゲとなった。
俺って生きてる意味あるのかな。
陸で上手く生きられない俺は、大きく深呼吸をして海を思い浮かべた。
ひんやりとした海水。
潜ると外の音は聞こえなくなり、水泡と自分の呼吸の音ばかりになる。
呼吸は少しだけ苦しいが、肌に触れる水の心地よさにそんなことはどうでも良くなる。
冷たく、撫でるような海にホッと気分が落ち着いた。
だから母さんも、海に潜ったのかな。
地上では上手く生きられなくて、
海の中が心地良くて。
深く深く潜り
陸に戻れなくなったのだろうか。
海はぜんぶを包み込んでくれるほど広大で
ぜんぶを飲み込んでしまうくらい残酷だ。
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