死んだら海にぶち撒けて

やゆよ

第1話


起きるのって海から顔を出す瞬間と似てる。

俺だけかな。こんなこと思うの。






ーーピピピ

控えめに鳴る携帯のアラームが六畳一間の部屋に響き渡る。目を開けた瞬間も辺りは暗く、本当に目覚めたのかも曖昧。自分の手元すら見えない暗闇で、音のする方に当たりをつけて腕を伸ばし音源を探した。ごそごそと手を右往左往。ようやく指先に硬い物が触れ、アラームを切る。パッと光るスマホ画面を覗けば、時刻は一八時。予定通りの起床時間。眠気を覚ますように肺の空気を吐き出し、現実に戻る。


大手通販サイトにて安価で購入した薄っぺらい煎餅布団から起き上がり、スマホの光源を頼りに壁際まで移動し電気スイッチを入れる。


パッと、途端明るくなる部屋に目が眩んだ。


シャッターが常に下がりっぱなしの俺の家は昼夜問わず暗い。薄い布団しか無い、生活感ゼロの殺風景な部屋を横目に風呂場に向かった。


軽くシャワーを浴びてから髪をセットし、カーテンレールにかけておいた制服に着替える。


姿見なんてものはないので目視で全身を確認してから風呂場にある鏡を覗く。頻繁に海に潜るため肌の色は割と黒めだ。焼けた健康的な肌と、それとは対照的な暗い顔をした男が映っていた。


「今日の予定は......アヤカさん来るんだっけ、」


常連の顔を思い出しながら、仮面を被るように口角を上げる。途端暗い印象から、柔らかく品の良い顔つきになる。この顔を好んで来る客は多い。


(俺は全然好きじゃないけどね)


母親とは全く似ていないこの顔は、会ったこともない父親に寄っているのだろう。枯れたあの家には写真などの過去が分かるものが一切なかった。だからそれは確かではないが、母の記憶・・・・がそう、言っていた。


母を思い出した瞬間、少し息が苦しくなった。

振り払うように、逃げ出すように、鏡から目を背けた。







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