お盆に文化祭
木全伸治
お盆に文化祭
「あんた、本当に独りでやってるんだ。驚いた。でも、よく、学校の許可が下りたわね」
「あ、お前、知らなかった? うちの担任の林先生も見える人で、その林先生の尽力で夜の教室を内緒で使わせてもらってるんだ」
「しかし、夜の学校って静かすぎて不気味よね。明かりが点いてるのも、職員室とここと隣の教室だけだし、せめて、廊下の灯りも付けない?」
「おいおい、バカ言うなよ、夏休みのお盆の時期に夜の学校の校舎が煌々と明るかったら近所のひとがおかしく思うだろ、だから、職員室とここだけ、それだけで十分さ」
「で、お客さん、来てるの?」
「ちゃんと来てるよ、お盆だからね」
「でも、そのひとたちは、食べられないんでしょ」
「仏壇にお供え物するのと一緒だよ、食べられなくてもお供えするだろ、あれと同じだよ」
「気持ちが大事ってこと?」
「全然意味がないことなら、御供えなんて風習続かないよ」
「それにしても、たこ焼き器なんてよくあったわね、あとこのカセットコンロ式の鉄板焼き器、これで、焼きそばとお好み焼き? 一人でたこやき、焼きそば、お好み焼きとよくやるわね」
「俺ひとりとはいえ、できるだけ作りたいと思ってね。それに、お供え物は少しでも多い方がいいだろ。これだけだとなんだから、一応、まだ職員室の冷蔵庫にフランクフルトも用意してある」
「じゃ、とりあえず、少しでも楽しんでもらえそう?」
「ま、おれ、関西生まれだから、たこ焼きの味にもそこそこ自信はあるし、とにかく、こういうのはお盆を楽しんだという気分にさせるためのものだから」
「そういえば、となりの展示はプラネタリウムね」
「ああ、もっと人数がいれば、お化け屋敷とかお芝居とかもやりたいけど、切り盛りしてるのは俺だけだから」
「あたしが手伝って、あげようか」
「いいよ、お前、見える人じゃないだろ。こうして来てくれただけでうれしい」
「うれしい、だけ?」
「ま、お前と夏休み中にどこかの夏まつりに行って、こんなしけた出店じゃなく、人ゴミを気にするほど屋台の並んでる場所を二人で並んで歩きたかったよ」
「なら、来年、行こうよ。ね?」
「アホ、俺は、これで綺麗に成仏して生まれ変わる予定なんだ」
「なに? 生まれ変わって、また私の彼氏になりたいの?」
「彼氏じゃなくて、お前の子供かもしれないぜ」
「え、それはなんかやだ」
「どうして」
「なんか嫌な姑になりそうだから。子供になるってことはいずれ結婚して親元を離れるんでしょ、そんなのやだな」
「ふ~ん、お前、そんなに俺のこと好きだったのか」
「な、なによ、悪い!」
「おい、まだ終わらないか?」
「は、林先生、二人の時間邪魔しないでください」
「あまり遅くなると、こっちもごまかしが難しくなるからな。お、あいつ逝ったか」
「え、あ、やだ、もう行っちゃった。先生が急に声をかけるからきちんとお別れ言えなかったじゃないですか」
「お、悪い、タイミング悪かったか? 済まん」
「けど、あいつ、今年も私が、もうこの学校を卒業するほど時間が経っていると気付いていないようでした」
「そうか、すまんな、とりあえず、後片付け手伝ってくれるか」
「いいですけど、先生、私、そろそろ、女子高生って、年齢じゃないんですけど」
「ああ、悪い、で、どうだった、あいつ。今年こそは満足して、来年は、もう現れないと思うか」
「分かりません。私、彼と親しかったですけど、・・・」
「ああ、いい感じにまでなったけど、お互い告白する前にあいつ死んじまったんだな。で、どうだなんだ、もう来年は、あいつが来ないと思うか?」
「すみませんが、わからないとしか言えません。また来年も、今年のことを忘れて、また現れるかもしれません」
「そうか、悪いが、とりあえず片付け手伝ってくれ」
「はい、先生・・・」
正直、先生には悪いが、また、来年彼が、今日のことを忘れてまた出会えたら、私はうれしい。いつまで、女子高生が通じるか分からないが。
お盆に文化祭 木全伸治 @kimata6518
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます