凍える記憶
コラム
***
幼い頃のあの日を、私は今でも鮮明に覚えている。
雪が静かに降り積もる小さな村で、私とエルリックは初めて出会った。
ある冬の日、私は雪の中で遊んでいた。
その時、一人の少年が現れた。
彼の名はスノー。
彼は薄汚れたコートを身にまとい、寒さに震え、迷子になっているようだった。
彼の頬は寒さで赤くなり、目には涙が浮かんでいた。
彼の手は凍えていて、私がその手を握ると、冷たい感触が伝わってきた。
私は彼を家に連れて帰ることにした。
家に着くと、暖炉の火が暖かく迎えてくれた。
両親はスノーを快く迎え入れ、温かいスープを差し出した。
スノーはそのスープを飲みながら、少しずつ笑顔を取り戻していった。
彼は私の家の一員となり、家族もその存在を受け入れた。
スノーと私はすぐに仲良くなり、毎日のように雪の中で遊んだ。
雪だるまを作ったり、雪合戦をしたり、無邪気な日々が続いた。
彼の笑顔は、私にとって最高の友達となる証だった。
しかし、彼がどこから来たのか、なぜ一人で雪の中にいたのか、私はその時知らなかった。
冬が終わりに近づく頃、エルリックの家族が見つかった。
彼の家族は実は領主に逆らい、そのために追われる身となっていた。
スノーの父親は領主に仕えていたが、ある日突然反逆の罪を着せられ、家族は逃亡生活を余儀なくされた。
私の家は彼らにとって一時的な避難場所だった。
「またいつか会えるよね?」
私は涙をこらえながらスノーに尋ねた。
彼は悲しそうに私を見つめた。
「きっとまた会えるよ」と彼は言ったが、その言葉には深い悲しみが込められていた。
別れ際、彼は私の手をぎゅっと握り締め、その温もりが永遠に続くように感じた。
時は流れ、私は大人になった。
村を出て領主の町での忙しい日々の中でも、雪が降るたびに幼い頃のスノーとの思い出が蘇ってくる。
彼と過ごした冬の日々を、私はいつも忘れられなかった。
仕事は忙しく、現実の生活に追われる毎日だった。
それでも、雪の降る日には一瞬立ち止まり、彼との思い出を胸に感じた。
ある冬の日、仕事帰りに雪が降り始めた。
私はその雪を見て、幼い頃の約束を思い出した。
「スノー……」
私が呟いた瞬間、目の前に一人の青年が現れた。
その青年はスノーに似ていた。
彼の目には過去の苦しみが色濃く刻まれていた。
私は青年に近づいた。
青年は私の方に駆け寄り、驚いた表情を浮かべた。
「やあ、久しぶりだね」と青年は言った。
彼の声にはどこか懐かしさがあり、私の胸に温かい何かが広がった。
私は驚きと喜びでいっぱいになった。
青年はスノーだった。
彼は家族と共に逃亡生活を続けていたが、ついに領主の手から逃れることができ、新たな生活を始めることができたのだ。
しかし、その目にはまだ逃れられない過去の影が漂っていた。
再会の喜びも束の間、スノーはかつての追手によって再び命を狙われることになった。
領主の怒りは収まっておらず、スノーと彼の家族を決して許すつもりはなかったのだ。
再び逃亡生活を余儀なくされたスノーは、私に別れを告げざるを得なかった。
「せっかく会えたのにごめん……。僕はまた行かなければならない」
涙を浮かべながらスノーは言った。
私はただ見送ることしかできなかった。
――それから数年後、私は消息を耳にする。
スノーは領主の追手との抗争に巻き込まれ、命を落としたという知らせだった。
雪が降るたびに、私は幼い頃のスノーとの思い出を胸に、彼の運命を悔やむしかなかった。
幼い頃の冬の日々は、私の心に永遠に残り続けたが、その記憶は良いものではなかった。
スノーの命を奪った現実の残酷さが、今でも、いつまでも私の心を締め付け続ける。
〈了〉
凍える記憶 コラム @oto_no_oto
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