氷室雪乃は使命に燃える

阿弥陀乃トンマージ

日向陽太

               1

 俺、日向陽太ひゅうがようたの顔はだらしなく緩みきってしまっている。え? 元々そんなもんだって? いや、そんなことはない。普段はもうちょっとばかりキリっとしているさ。まあ、あくまでも自己評価の範疇を出ていないけれどな。

「……」

 俺は自らの横を歩く物体に目をやる。物体というのは失礼だな。制服に身を包んだ女子生徒だ。俺のクラスに転校してきたわけだから、同級生ということになる。つまり……まぎれもないJK、女子高生ってことだ。いや、クラスにも女子は当然何名もいるが、それらと比べても抜きん出ている。何故か? それは東京からの転校生だということだ。身に纏っている雰囲気が、いわゆる都会の女感をこれでもかと出している。田舎では光り輝いている。

「ふう……」

 今、ため息交じりに髪をかき上げた。この髪がまず目を引く、なんといっても銀色なのだ。金髪や茶髪ではない、それならこの辺の田舎でも見かけないことはない。しかし、銀髪だぞ?これはかなりレアだ。しかも、彼女の醸し出す雰囲気には、ぴったりとマッチしている。とても綺麗で、手入れがよく行き届いている長髪だ。

 俺は横目でチラチラと観察を続ける――彼女にはバレないように細心の注意をこれでもかと払って――髪の次に目につくのはなんといってもそのルックスだ。端正かつ美麗と形容すればいいのだろうか? 正面からはまだそんなに見ていない。もっぱら横顔のみだ。しかし、横顔のみでも十分に絵になる。はっきりとした目鼻立ちは、美術館に飾られた彫刻品を思わせるし、長いまつ毛は、漫画やアニメのキャラクターと見紛うほどだ。そして……ぷるっとした薄ピンク色の唇、厚過ぎず、薄過ぎず、ここから発せられる言の葉はきっと魔法の呪文のように聴こえるだろう。今のところ、自己紹介くらいしかちゃんと聞いていないが。

 俺は観察を続ける。彼女のルックスが秀でているということはある程度伝わったことだろう。ならば、次はスタイルについて説明をしなければならない。これは俺に課せられた義務だ。なに、ちょっと待てと? 横顔ならばいざ知らず、体をジロジロと見るのはマズいって? 多分、その言い分の方が正しい。しかし、俺は健全な男子高校生だ。なにもかもを理性でふたをしてしまうにはやや若い。というわけで見る。豊満なバストに目がいく。歩いているだけで少し上下に揺れているのではないか? 擬音を付けるなら、『たぷんたぷん』だ。これは凶器と言える。爆弾を抱えているようなものだ。そして、ほっそりとしたウェストと、スラリと伸びた長い手足――俺はこの年代の平均的な身長だが、俺よりは少し背が低い、それでも女子の中では長身にカテゴライズされるであろう――これまた『プリプリ』と音を発していそうなヒップにも目を奪われそうになる。少し残念というか、気になる点が、彼女が手足を白い手袋や黒の長袖のアンダーシャツ、さらに黒のストッキングで覆ってしまっていることだ。まあ、ストッキングは良いが。しかし、暑くないのだろうか? まあ、それはいい。重要なのは彼女が俺と下校したいと申し出たことだ。こんな幸せがあるだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る