魔物の国で新生活!魔王様の溺愛を添えて

@adjtjqwdajdagpt

第1話 アリシア・エリザベス

「アリシア・エリザベス、お前を我がエリザベス家より追放する!」

「…………は?」


 目に飛び込んで来たのは、ヨーロッパの王宮のような部屋。そして、私を睨みつけている貴族のような格好のおじさんとおばさん。

 先の宣言は、たぶん、私に向かって言っている。


「えぇと、すみません。……わけがわからないのですが?」


 キョロキョロと周りを見渡す。高そうな調度品にあふれた部屋には、これまた貴族っぽい人たちが大勢いて、みんな一斉に私へと視線を向けていた。しかもなんだか彼ら全員、私に軽蔑するような眼差しを向けているような……。

 

「アリシア!」


 私の前に立つ偉そうなおばさんが、うろたえる私を睨みながら怒鳴る。


「えっと……私のこと?」


 まさかと思い恐る恐る後ろを振り向いてみたけれど、もちろん私の後ろには誰もいない。というか、みんな私から数メートルは距離を取っているので、おばさんの言う「アリシア」とはどう考えても私だ。


「あのぉ、私は」

「アリシア! 皇帝陛下の前でなんという態度ですか! 下民のように背中を丸めてみっともない。追放される身とはいえ、わきまえなさい!」


 怒鳴られて、ピッと背筋が伸びる。

 が、ちょっと待て、という感じだ。

 

「あの、追放ってなんですか? そもそも私『アリシア』なんて名前じゃないです。私は清水玲奈という名前で……って、え? 皇帝?」


 おばさんの隣に居るおじさん――もとい皇帝は、確かにこの中で一番着飾っていて、偉そうで、その上、私に一番怒りを向けているように見えた。


「アリシア。今度は頭がおかしくなったフリをするのか? 保身の為とはいえ度が過ぎておる。この私を愚弄するその行為、実の娘であっても許さんぞ!」


 わなわなと手を震わせた皇帝の顔が、みるみる真っ赤に染まっていく。これは相当ご立腹だ。初対面でもさすがにそのくらいはわかる。


「えっと、ちょっと待ってください! おかしいでしょ。実の娘ってなんですか? あなたたち、どう見ても西洋の人ですよね!? こんな生粋の日本人みたいな私が娘なわけないじゃないですか! だいたい服だってこんなTシャツ姿だし……って、えぇえ?!」


 Tシャツの胸元を握りしめた。……はずだった。けれど手の中にはTシャツとは思えないゴツゴツした冷たい感触がある。慌てて自分の服に視線を向けた。


「な、ななな、なんじゃこりゃあ!」


 私の手の中にあったのは、沢山の宝石がついた絢爛華麗なネックレスだ。しかもその下には薄い黄色のドレスのふんわりとしたスカートが見える。


「な、な、何このドレス! スタジオア◯スの七五三写真か!」


 そう。私が着ていたのは、15年経っても未だ実家のリビングに飾ってある七五三写真の衣装のようなドレスだった。着物のオマケで着たような、フリルだらけのふんわりしたドレス。7歳くらいならまだギリギリ着られたけど、20歳を過ぎた私が着るのは流石に痛すぎる。

 だいたい、日本人形みたいな私にこんな格好が似合うわけがない。いや、これはそもそも現実?

 ハッとして、私はおばさんに問いかけた。


「すみません。私のこと、なんて呼びました?」


 おばさんが意地悪そうな顔をする。


「なんですか、白々しい。あなたはアリシア。私と皇帝陛下の娘だった人間。たった今、その関係は消滅しましたけれどね」

「アリシア……。姓はなんでしたっけ?」


 今度は皇帝と呼ばれたおじさんに問う。


「お前はこの国を治める一族の名もわからぬと言うのか? どこまで私を愚弄すれば気が済むのだ。この国を治めるのは唯一神、沈まぬ太陽、エリザベス家だ! お前にはもう関係ない事だがな!」

「エリザベス。……アリシア・エリザベス」


 金細工がほどこされた大きな鏡が壁にかけられているのを見つけて、鏡の前に駆けだす。

 鏡に映る綺麗な人を見て叫んだ。


「やっぱり!」


 顔、頭、体。両手でペタペタと前身を触ると、鏡の中の真紅の髪をした美しい女性も私と同じ動きをした。

 間違いない。


「アリシア・エリザベス! あの伝説の問題作乙女ゲーム『エリザベス・クロウ』の主人公! ……に、私がなっちゃったわけね!」


 そういえば私の声もなんだか人気声優っぽい。たしか「エリザベス・クロウ」には人気声優が多数起用されていたっけ。

 という事はやっぱり、ここはゲームの世界!

 これがよくある異世界転生ってやつか、と鏡の中の美しい自分に笑いかけているところで、私は両脇を近衛兵たちに抱えられてしまった。


「連行します」

「ちょ、ちょっと! 何するんですか! 私はアリシア・エリザベスですよ! 離してください!」


 問答無用で連れて行こうとする近衛兵に向かって、私はとりあえず権力を振りかざしてみた。アリシアは皇女。皇帝の娘なのだから、こんなの不敬罪だ!

 それを見た皇帝がフンッと鼻で笑う。


「正気を取り戻したか、アリシア。だがお前はもうエリザベス家の人間ではない。お前の数々の所業を鑑み、お前は明日、辺境の地『ザハード』へ追放とする! それまで部屋に閉じ込めておけ!」


 皇帝の言葉に近衛兵たちが「はっ!」と声を上げる。そのまま私をズルズル引きずって、部屋の外へと向かいだした。


「ちょ、やだ! やだ! 転生していきなり追放はない! まだ何も楽しんでないんだけど! ねえ、ちょっとやめて! 離してよぉ!」


 泣こうが叫ぼうがお構いなしだ。結局私はなすがままアリシアの部屋に閉じ込められてしまった。

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